「350年は誇大宣伝?(2)」(2024年06月04日) アンボン島でポルトガル人がホニポプにコロニーを作ったとき、その土地の領主はヒトゥ 王国だった。ヒトゥ王国はポルトガル人の植民を許したが、土地の主権を与えたわけでは ない。土地の主権は後になってポルトガル人が武力と策謀で奪ったのである。だからポル トガル人が主権を持つ時が来るまで、その地は別の主権国家の中にかれらが作った、かれ らには主権のないコロニーであり、当然ながらポルトガル本国に従属していなかった。な らば、その間のポルトガル人居住地は、現代日本語の定義に従えば植民地と呼べなくなら ないだろうか。ところがポルトガル人がヒトゥ王国の土地に植民を行なったのは事実であ り、植民を行って定住した土地を植民地と呼ぶのが元々の「植民地」という言葉の語義だ ったはずだ。 台湾と朝鮮半島について、併合されたことによってその土地と人民は大日本帝国に帰属す ることになった。統治支配を行なうエンティティが自民族から異民族の日本になったとい うことだ。なぜなら、それは併合であって合併ではなかったのだから。ただ、支配被支配 のウエイトがどうであれ、形式だけを見るならば、併合された異民族も日本人の同胞とし て扱われる機会が生じたと言えるようにわたしには思われるのである。日本という国家を 構成する土地と人民の一部になったのだ。ただまあ、そんな目でこのできごとを眺めるこ とのできる日本人がどれほどいたことか。 大日本帝国軍の中に台湾人や朝鮮人の兵士がたくさん混じっていたことがインドネシア人 の間でよく知られている。インドネシアの独立に貢献した日本人兵士の中にそんな出自の 人物がちらほらと見られた。かれらは軍隊の中で日本名を名乗らされたためにあたかも日 本人のように見えているものの、かれらがインドネシアに遺した墓標には本名だれそれ、 日本名だれそれ、と彫り込まれたものが時おり見受けられる。 その台湾や朝鮮半島の国家ステータスと、大戦中に占領したインドシナ・フィリピン・イ ンドネシアの国家ステータスは違っている。併合という政治行為がなされたか否かという ことがその国家ステータスの違いを生んでいるのだ。その違いを知らない、もしくは理解 できない者がネット内におかしなことを書いているのを時おり目にすることがある。これ は日本国民に対する現代史教育が犯している疎漏のひとつかもしれない。 インドネシア語の「jajah」とは国や地方を支配し統治することを意味している。「イン ドネシアは350年もの間・・・」というこのことがらについて語るインドネシア人は植 民地という言葉を使わないのが普通だ。オランダ語のkolonieが摂りこまれてkoloniとい うインドネシア語が作られているとはいえ、日本語「植民地」の意味を表すとき、インド ネシア人は一般的にjajahanまたはtanah jajahanを好んで使っているようにわたしは感じ ている。その点においてdijajahは英語のcolonisedに対応している。 ちなみに上のインドネシア語文を英語訳するとこんなものができる。 Indonesia was colonised by the Dutch for 350 years. だがそれに合わせて Indonesia dikolonisasi oleh Belanda selama 350 tahun. と作文すると文意が多義的になる。「植民地化」と「植民を行なう対象地にする」では政 治的なニュアンスが同じにならない。[ 続く ]