「世界を揺さぶったスパイス(48)」(2024年07月02日)

フンバンハスンドゥタン県ドロッサングル郡のクムニャン農民のひとりマヌランさんは自
分が所有する3ヘクタールの共同用地にクムニャンの木を3百本持っている。5月から1
0月までの収穫期にかれは、クムニャンを収穫するために日曜日から水曜日まで森の中に
入り、仲買人が村に来る木曜日に家に戻る。仲買人はドロッサングル市場が開かれる金曜
日にその市で売り場を開くのである。マヌランはたいてい、4〜5キロのクムニャンを家
に持ち帰って来る。マヌランは森に入るとき、滞在日数分の米と塩魚を持参する。森の中
に建てた高床式の小さい小屋に寝泊まりして自炊するのだ。

家から森の小屋に着くまで何キロも歩かなければならない。そしてまた森の中を何キロも
歩き回り、クムニャンの木に登っては表皮にこびりついた樹脂をこそげ落す。森の中で川
をわたることもしばしばだ。森の中の数日間はたいへんに体力を消耗する毎日になる。か
れらは子供のころから体力を鍛える生活をしてきているのだ。

マヌランは村に来る仲買人のひとりから借金している。大きい金額の金が必要になったと
き、仲買人から金を借りた。その仲買人は利子を付けなかった。それ以来マヌランは必ず
その仲買人にだけ収穫したクムニャンを売るようになった。借金の返済もそのほうが簡単
だし、心理的にその仲買人に義理ができたような気持ちをかれは抱いている。


仲買人は市で売ることもし、町の頭家にも売る。頭家は仲買人が持って来たクムニャンを
買い取って7種のカテゴリーに分ける。頭家は十分な量になるたびに中部ジャワに送る。
プルウォクルト・ゴンボン・マグラン・スマランなどに。

北タパヌリのタルトゥンに住む頭家のひとり、ウディン・ヨハネスさんはクムニャンを9
割がた中部ジャワに送っていると語る。中部ジャワはタバコの産地であり、クムニャンは
タバコ生産者が製品に混ぜるのだ。時期によって扱い量はひと月に5トンに達するそうだ。
頭家の中にはひと月の出荷量が15トンに達するところもある。

だが海外の需要のほうが大きいと考えるひともいる。フンバンハスンドゥタン県の生産量
の8割は中部ジャワに送られ、残る2割がブラワン港から、あるいはバタム経由でシンガ
ポールに送られている。中部ジャワからシンガポールに流れるものも当然あるだろう。シ
ンガポールからはヨーロッパ・インド・中東に船積みされているそうだ。


ヌサンタラの全域を眺め渡すなら、クムニャンはタパヌリから西スマトラの一部にかけて
の一帯でのみ産出されている。そして生産方法も太古からの伝統的なやり方に頼って子か
ら孫へと伝えられてきた。量産を目指すイノベーションとはまったく無縁の世界が今日ま
で続けられている。

インドネシアのクムニャン業界には何ひとつ新しいことが起こっていない、と関係者たち
は言う。何世紀も前から同じ状態が今日まで続けられているのだ。人間は世代変わりして
も、行われているいることは何百年も前のままだ。たとえばクムニャンの木をもっと家の
近くに植えて、森の中を何日も徘徊する粗放的な方法を改善し、生産効率を高めることが
なぜなされないのか。

クムニャン農民は自然に生えた木だけに頼っている。植えると、樹脂を生産するまでに2
0年かかると言われている。だが農学者は植樹して適切な世話がなされれば、8〜12年
で樹脂を生産するようになると語っているのだ。加工にしても、大きさや品質を選ぶ分別
作業をするだけで、そのあとはタバコ業界に売り、あるいは国外に輸出されるだけ。

自然木は平均して年間の樹脂生産量が0.5〜0.75キログラムしかない。北スマトラ
州シマルグンの森林生活環境開発調査館は2017年にスティラクススマトラナの新種を
発見したことを広報した。3年間の調査と観察を経て引き出された結論は、その新種が年
間に樹脂を2キロも生産するという、驚くべき能力だった。開発調査館は母樹として使え
る木が30本確保されていると述べている。[ 続く ]