「世界を揺さぶったスパイス(52)」(2024年07月08日)

領民がチュンダナを販売すると、その代価の85%が州庁の収入になり、伐採者の取り分
はわずか15%にされた。8割対2割と書いている記事もある。おかげで州農林物産地元
収入の中で3分の1がチュンダナで占められはしたものの、その政策はとんだ反作用を生
んだ。州内のチュンダナが絶滅に向かいはじめたのだ。

もしも民衆が植樹したものが30年くらい経ってから突然州政府に取り上げられたなら、
民衆の怒りがくすぶらないはずがあるまい。民衆は行政に対する抗議として、自宅周辺に
植えてあったチュンダナを伐り倒して焼却した。民衆はもうその樹の世話をする意欲が完
全に冷え切り、ましてや売っても大半の金が州政府に取り上げられるのだからそんな間抜
けなことをする州民がいないことを思い知れとばかり、チュンダナを持っていた州民が続
々と自分の樹を伐り倒しはじめ、その動きが燎原の火のように州内に燃え広がった。

ティモール島ではそれまで神の遣わした香りの樹と呼ばれていたものが悪魔の樹と呼ばれ
るようになった。hau meniがhau nituに変身させられたのである。カトリック文化の中で
悪魔は根こそぎ退治しなければならないものにちがいあるまい。


1997年の中央統計庁データは、東ヌサトゥンガラ州のチュンダナの樹が76.9万本
あることを示している。そのうちの若木は58.6万本あった。ところが2001年デー
タでは、若木は1.7万本に減少したのである。

ティモール島では1997年に250,940本のチュンダナの樹があったのだが、2008年
のデータでは樹齢20年を超える113,049本の樹が伐採された結果、残っているのは137,8
91本だけと報告されている。

1998年州条例第2号で1986年の州規定は取り消され、州政府の所有に帰するもの
は州が保有する森林に生えているものだけという改定がなされた。チュンダナは悪魔の樹
でないということが民衆の間に徹底したのはやっと2000年代に入ってからだった。


東ヌサトゥンガラの州庁と諸県庁はチュンダナの復興に取り掛かった。2000年を過ぎ
てからチュンダナの植樹を民衆に誘い掛ける州条例や県条例が出されはじめたのである。
チュンダナ植樹キャンペーンが開始され、2009年には3万本を超える苗木を無料で住
民に配布して、自宅の周辺に植えさせた。スンバ・アロル・東フローレスなどの12県が
2016年の時点で植樹を活発に行っている。植樹面積は5百ヘクタールにのぼり、そこ
には樹齢8〜16歳の若木が成育途上にある。

ところがキャンペーンの初期には育て方の指導が徹底して行われなかったらしく、幼樹の
ための宿主を用意しなかった住民がかなりいて、たとえばティモール島クパン県ポナイン
村の110戸が自宅周辺に植えたチュンダナの苗木の中に失敗したものや生き延びてはい
るが元気のないものが目に付くという記事が新聞に掲載された。その記事では、地元行政
に対してもっと綿密な計画性を持って植樹キャンペーンを行なうようにという要請が批判
として記されている。

チュンダナの苗木はたいへんセンシティブであり、雨季に植えたりすれば失敗が多発する。
乾季にうまく宿主に根付いた樹は勢いが強く、成長すれば巨木になる。このような樹は次
にやってくる雨期を乗り越える力を持っているそうだ。[ 続く ]