「世界を揺さぶったスパイス(53)」(2024年07月09日)

ポナイン村の110戸の家庭が2007年からチュンダナ植樹キャンペーンに加わり、2
010年には樹齢2〜3年の若樹が村民の生活領域の中で550本育っていた。そのポナ
イン村ヌンカ部落の森林でチュンダナの自然樹が14本発見されたという報道記事が20
10年に出た。クパンの町から60キロほど離れているポナイン村は1990年代までテ
ィモール島内でも名前の知られたチュンダナの生産センターだったのだ。

先祖代々チュンダナを生計の基盤に置いてきたポナイン村民はチュンダナの樹に対する関
心がきわめて強く、どこに何本生えているという知識をみんなが共有しており、森の中の
自然樹すらその対象に含まれている。たとえば村民のひとりで家庭の主婦であるヘンデリ
ナ・ンギリさんは取材に訪れた記者が尋ねた「この部落に生えているチュンダナの自然樹
はどれですか?」という質問に、即座に二カ所の森を指差して回答した。それ以外はすべ
て住民が植えたものなのだそうだ。

もう長い間、チュンダナの樹は畑の外れや住居あるいはオフィスの庭など、人間の生活領
域内にちらほらと立っているものだけであり、森の中に分け入ってもまず見つかるもので
はないという考えがひとびとの頭の中を占めていた。1987/88年に68万本と記録
された州内のチュンダナ樹は10年後に54%まで減少し、2010年の推定値は20%
の12万本と考えられていた。

1996年ごろ、州内にチュンダナを加工する民間事業所は揮発油精製工場を含めて23
あったが、そのうちの13は原材料入手難のために事業閉鎖寸前の状態になっていた。州
庁はチュンダナの保存を目的にして伐採クオータを定め、伐採量をどんどん小さくして行
ったためにチュンダナ民間産業は破滅への道を歩まざるを得なくなった。かれらが生き延
びるためには盗伐屋から高いチュンダナを買うしかなくなったのだ。州庁は盗伐屋の犯罪
行為を撲滅するために民間チュンダナ加工産業をすべて閉鎖することまで検討した。ジリ
貧になるとこのような狂気が人間を支配するようになる一例かもしれない。


州内の森林からチュンダナの自然樹が枯渇したと考えたために州庁は2000年以来の一
大植樹キャンペーンを行ってきたのである。正確な調査など行いようもないわけだが、チ
ュンダナの自然樹はほぼ絶滅したというのが常識になっていたから、ポナイン村からの知
らせは関係者を驚かせるに足るものだったようだ。

ヘンデリナが指差した二カ所の森林はアレクス・ラッメニさんとコルネリス・ラッメニさ
んがそれぞれ権利を有している土地だ。コルネリスの土地に13本、アレクスの土地に1
本あるのが見つかったのである。それらの樹齢十数年を経た樹はまったく人間の世話を受
けていなかったために小柄であまり良い発育状態ではない。幹の直径は4〜5センチで樹
高は6〜7メートル。まともに育ったものなら樹齢15年で幹の直径7〜8センチ、樹高
は10メートルになる。ところが村民はこの貧相な発育状態の樹を、すばらしいと期待を
込めて眺めるのである。それには訳があった。

発育状態の貧相な樹は樹齢30年を過ぎて収穫期に入ると引く手あまたになる。それは、
そんな樹の内部の状態が高品質高価格を実現させるからだ。固い芯の部分が枝・幹・根に
至るまでたくさん得られ、しかも芳香が強い。商品としてのチュンダナにはそんな性質が
求められているのである。

反対に、豊かに育った大きな立木には時として固い部分が形成されないことがある。また
樹齢30年に達する前に乾燥してパサパサになることもあり、収穫のために伐り倒しても
強い芳香を放つ部分が得られなかったりもする。


アロルでは2005年からチュンダナ植樹の大キャンペーンが開始され、8年間に18.
5万本が463Haの土地に植えられた。昔はオランダ人も認めていた高品質のチュンダナ
を復活させて、地元の特産品にしようというのである。アロル県は東ヌサトゥンガラ州を
インドネシア、そして世界最大のチュンダナ生産地にすることを目標にしているのだ。

アロル産チュンダナは若樹の生育が速く、樹は乾季が長引いても耐える持久力を持ってい
る。バリ・ロンボッ・ティモール西部地方から取り寄せた苗木と比較して、その長所は既
に実証済みであるとのことだ。[ 続く ]