「天の蝕(終)」(2024年07月18日) インドネシア科学院は皆既日蝕下での動物の生態観察も並行して行うことにし、中部スラ ウェシ州ロレリンドゥ国立公園に観察班を派遣した。その観察報告によれば、皆既日蝕発 生時の日射量の急速な減退と回復時の急速な増加にたくさんの動物が不安を感じたようだ った。動きが活発化したものがおり、また緩慢になって眠るものもいた。 タルシウスはピーク時直前に何度かネガティブな音を出した。普段夜中にタルシウスが発 する超音波は鋭い集中的なものであり、かれらは混乱しているのではないかという印象が 感じられた。 バビルサは暗さが増すと眠り始め、明るさが強まるとまた起きて食べ始めた。マレオの群 れは皆既日蝕ピークの開始直前に、不安に駆られて騒がしくなり、ピークが始まると動き が減っておとなしくなった。オスのマレオの中には上にあがってきて眠る用意を始めたも のもいる。 昆虫では、糞虫やセミはピーク時に動きを止めて身を隠し、コオロギが夜に発するような 低い音を出した。カエルも身を隠して鳴き声を出し、互いに呼び交わすような鳴き方を示 した。それは夜を迎えるときに普段行っている行動だった。 2016年3月9日の皆既日蝕は国民の大祭の形で終わった。マカッサルではロサリ海岸 に朝から数千人の住民が集まってイスラムの日蝕を迎える礼拝が行われた。 パランカラヤの大サークルにも千人を超える住民が集まり、バリアンの祈祷の声と楽器音 の合奏によって天地に静粛な気が満ちる中で、ひとびとは心を落ち着けて日蝕を迎えた。 そのあとダヤッの伝統舞踊が始まり、稀にしか起こらない蝕の発生を祝った。 インドネシア領土で一番最初に皆既日蝕が起こる西スマトラ州ムンタワイ島でも早朝に神 への祈りが捧げられ、一部のひとたちは朝の体操運動をしながら蝕の発生を待ち、この自 然現象を楽しんだ。バンドンでは日蝕を記念する市民アート展示会が催され、見物の市民 が日蝕見物方々その会場にたくさん集まってきて芸術鑑賞を行った。ソロではパサルグデ の表でグジョッルスンが演じられ、悲壮感のかけらもなく歓びはしゃぐ雰囲気の中で伝統 芸能を見物の市民が楽しんでいた。 ヨグヤカルタでも朝から千人を超える市民がTugu広場に集まって来て、お祭り気分を盛り 上げた。トゥグ広場とは言っても広い道路が直角に交差する場所であって交差点のど真ん 中だから広場とは言えないのだが、王宮前アルナルンからまっすぐ北上して有名なマリオ ボロ通りを通り過ぎ、更に歩いてやっと達する開けた場所であり、アルナルンから2.3 キロ北に離れている。ヨグヤカルタのシンボルである記念塔が建っている場所だ。 言うまでもなく、恋人とふたりでそこへやってきたカップルもたくさんあった。そんなカ ップルのひとつが群衆の中で密やかな振舞いをした。28歳の男性が24歳の女性の指に 日蝕の下で婚約リングをはめたのである。将来どんなに複雑怪奇なことが起ころうとも、 このふたりの関係はかならず元のさやに納まるにちがいあるまい。[ 完 ]