「古本の中から宝物(終)」(2024年09月26日)

ホテル業界が当時使っていた用語が今ではすでに変化してしまったことがそこから解る。
pengurusからmanajemenに、mendjalankan(menjalankan)からmengoperasikanに変化してい
るのはきっとおなじみのことだろう。

この顧客コメントカードは宿泊客に名前と客室番号を書くように義務付けている。いまそ
んなやり方を客に求めるホテルはないだろう。客にサービスの評価を求めるホテルがあっ
たとしても、サービスの良し悪しを数字や記号で書くだけで終わるようにしてあるはずだ。
客の時間と手間を求めるようなことをホテル側が行えば、客の方が相手にしなくなるので
はあるまいか。

< 絵ハガキ >
絵ハガキはしおりとして使われやすいものと思われる。旅行中に本を読むひとたちはきっ
とそうしがちだろう。ホテルに泊まればそのホテルを宣伝するきれいな絵ハガキが無料で
手に入る。旅行で移動中に本を読む趣味を持つひとにとってそんな絵ハガキは便利なしお
りになるはずだ。

ホテルインドネシアの白黒写真が印刷された絵ハガキが本当に古書の間から出てきた。そ
の本の所有者はきっと乗り物の中で読書する趣味を持った、裕福な階層のひとりだったの
ではあるまいか。あの時代にホテルインドネシアに泊まること自体が一種のエリート行動
だったのだから。


そのホテルインドネシアの白黒写真絵ハガキも1962年から1972年の間に作られた
もののように見える。写真は道路を隔てたウィスマヌサンタラからホテルインドネシアの
表ファサードをフォトグラファーが撮影したものと推測される。ジャカルタの路上交通は
閑散としていて、自動車の姿はあまり見られない。写真の中に見えるのは当時の人気車種
だったフォルクスワーゲンCombiだ。この絵ハガキには英語文が印刷されている。
The last word in comfort and luxury in distinctive setting of Indonesia charm and 
hospitality. Fully Airconditioned.

そのころ、エアコン完備はたいへんなぜいたく品だった。ホテルサービスの中にそのこと
がらが含まれており、客がぜいたくな待遇を享受できることを宣伝するのはホテル側にと
っての販促方針になっていたのだろう。


古書の中から見つかったそれらの歴史的な遺物は歴史上の大事件と特別な関係を示すもの
ではない。にもかかわらず、それらは古い時代の世の中とそこでの人間の暮らしを現代の
われわれに垣間見せてくれるのもなのである。昔の時代が彩を伴ってわれわれのイメージ
の中に像を結ぶのだ。

そしてある日、禁止された政党の党員証、歴史的有名人が手書きしたメモ、あるいは歴史
的事件に関係を持つ手紙や文書などが古書の中に挟み込まれた遺物の中に見つかる可能性
は必ず存在している。

昔、オランダの大学でこんなことが起こった。大学図書館の蔵書の中から落書きのような
紙を学生のひとりが見つけた。そしてそこに書かれた線や絵や文字などを分析した結果、
歴史上の有名人が手書きしたものである可能性が高いことが判明し、大騒ぎになった。

何百年も前に生きて歴史のトピックの中に名前の登場するだけの人物が、いきなりそこに
よみがえったのである。[ 完 ]