「インドネシア大統領パレス(1)」(2024年09月26日) 現在、大統領制を執っている世界の国々においては大統領の官邸をPresidential Palace や National Palaceなどの名称で呼んでいる国が少なくない。President's Houseまたは State Houseなどの呼び方もあるが、パレスという言葉の使用頻度には及ばない。 パレスの語義は王・女王・その他の社会的高位者の公的住居としての豪邸というものであ り、その社会における統治権力に結びついたイメージを強く漂わせている印象をわたしは 感じる。ヨーロッパでは、王制でない大統領制国家32ヵ国中でなんと24ヵ国が大統領 官邸の名称の中にPalaceの言葉を使っていた。ところが、米国のWhite Houseあるいはそ の別称の中にPalaceを使う呼称がひとつも含まれていないのは、さすがと言って良い現象 かもしれない。 インドネシア共和国も大統領制国家のひとつであり、モダン行政統治の諸原理はオランダ が持ち込んだものを見倣ったために、大統領官邸をパレスという用語で呼ぶことが文化慣 習として定着した印象がある。 VOCがバタヴィアのカスティル内に設けた建物群の中にはもっとも大きい三階建ての総 督館があって、総督がそこで生活するほかに、総督事務局やVOC実務機構の諸事務所、 そして参議会会議場などが中に設けられていた。その総督館がPalais de Opperlandvoogd (上級ガバナーパレス)と呼ばれていたのである。カスティル内には防衛軍が常駐し、ま たチャペルや慰安所もあって、カスティルから外に出ない生活をしても困らないようにな っていた。 城壁都市バタヴィアから出て南部に生活の場を移す動きが18世紀に始まり、19世紀初 期には総督館もついにカスティルからレイスヴェイクに移された。民間人有力者がレイス ヴェイクに建てた邸宅を政庁が買い取って総督宿舎にし、そこをオランダ人はHet paleis van de gouverneur-generaal in Rijswijk te Bataviaと呼んだ。政治上の最高位者が住 む豪壮豪奢な建物はパレスなのであり、パレスに対応するインドネシア語はistanaなのだ から、オランダ人がパレスと呼んだ建物をインドネシア人もイスタナと呼んだ。 インドネシア共和国の大統領は全国に6つあるイスタナを自由に使うことができる。大統 領宮殿Istana Kepresidenanと呼ばれている建物がジャカルタ、ボゴール、チパナス、ヨ グヤカルタ、タンパッシリンの5ヵ所にあり、ジャカルタには独立宮殿および国家宮殿と 名付けられているふたつの宮殿がある。個々の建物はまた次のような名称でも呼ばれてい る。 Istana Merdeka (Jakarta) Istana Negara (Jakarta) Istana Bogor (Bogor) Istana Cipanas (Cipanas) Istana Gedung Agung (Yogyakarta) Istana Tampaksiring (Tampaksiring) そしてインドネシアの首都をジャカルタから東カリマンタン州の新都市ヌサンタラへ移す にあたって、当然ヌサンタラに大統領宮殿が建設されることになった。インドネシアで7 番目の大統領宮殿はガルーダ宮殿と命名された。 Istana Garuda (Nusantara) [ 続く ]