「鬘 付け髷 付け睫(1)」(2024年10月07日)

「カツラは偽毛である」という日本語文は論理的に正しいのだろうか?
「偽(あるいは贋)」という漢字を当てはめている「ニセ」という言葉は「ホンモノに似
せたもの」という意味であり、つまり「偽(あるいは贋)」はホンモノではないという解
釈になる。合成繊維で作られたカツラであればその通りなのだろうが、人間の髪の毛で作
られたカツラであれば果たしてそう言えるのかどうか?

インドネシア語では、人間の髪の毛で作られたカツラであってもrambut palsuと呼ばれて
いる。palsuはKBBIに、(1)ホンモノでない・正当でない・合法でない、(2)似せて作
られたもの、等々の語義が記されている。

つまりカツラをrambut palsuと呼んでいるインドネシア人は「カツラは偽毛である」と言
っているのだ。あなたはそんなことを言うインドネシア人と、事の真偽を議論するだろう
か?インドネシア人は「カツラは自分の本当の髪の毛でないから偽毛である」と言ってい
るにすぎないのだが・・・


人間の髪の毛は遠い昔から商業価値を持っていた。髪の毛は売れたのである。そんなエピ
ソードの書かれている西洋人作家の古典小説があったような気がする。女性は髪を長く伸
ばすのが古来からの美しきジェンダービヘイビアだったから、昔から女性は自分の頭にひ
と財産載せていたということが言えるのかもしれない。

今から20〜30年くらい前の新聞に、ジャカルタ都バスの中で真昼間に女性を襲った男
のニュースが報道された。いや、これは性暴力の話でなくて、長い髪の女性の後ろにいた
男が、ハサミでその女性の頭髪を切り取ったという事件だ。その記事では、犯人は性的変
質者でなくて金目当ての犯行だったように書かれていたから、インドネシアで髪の毛は依
然として売り物になっているのだろう。女性の持っている現金でなくて髪の毛を奪う事件
は性犯罪にされるのだろうか、それとも強盗事件に数えられるのだろうか?


1967年6月29日付けコンパス紙の記事に、香港がインドネシアから輸入する人間の
頭髪は中国から輸入するものに次いで第二位の地位を占めている、というものがあった。
香港のカツラ製造産業がその原料として頭髪を必要としていたのだ。その香港の輸入統計
には、三位以下の国々の名前も記されていた。フィリピン‐カンボジャ‐北ベトナム‐シ
ンガポール‐インド‐韓国。香港から輸出されるウイッグ製品はほとんどが米国に向けら
れており、輸出金額は653万香港ドルだった。そのころ、ウイッグがファッション商品
として赤丸上昇中だったらしい。

どうやら当時香港で生産されていたウイッグは黒髪ばかりだったのではないかと思われる。
米国に黒髪の需要しかなかったとは思えないから、赤毛や金髪のファッションウイッグは
米国もしくはヨーロッパのどこかが生産国になっていたのではあるまいか。ということは
西洋のどこかの国でもいまだに髪の毛が売れていることが推測できる。

当然米国の国内にもウイッグ生産者があり、インドネシアから米国のウイッグ製造業界に
原料の頭髪が年間150トン輸出された。世界の頭髪輸出国ランキングでも中国がトップ、
そしてインドネシアが堂々の第二位に着けていた。

1968年、インドネシアにOriental Indonesia Development Ltd.という社名のカツラ
製造メーカーが誕生した。米国と香港の資本が入ったその会社は年間に5,570個のウ
イッグを米国に輸出した。インドネシア産のウイッグは市場で好評を勝ち取り、フィンラ
ンドへも輸出された。[ 続く ]