「鬘 付け髷 付け睫(8)」(2024年10月16日)

製造会社が増加する注文数をこなすために人手を増やしても、まず教育訓練のプロセスが
控えている。その間、コストは確実に増えるが、アウトプットはなかなかそれに見合わな
い。それはそれで行うにしても、既存の労働力を残業させればアウトプットは確実に増加
する。そうその通り、工場経営者にとって残業をさせない手はないのだ。

コシヤトゥンさん32歳は自宅で夫と子供と一緒に夕食を摂ってから、工場でしていた仕
事をまた始めた。2本の釘の間に張った合成繊維の糸に髪の毛を撚り合わせていく。夜は
更けて、かの女の表情に眠気が漂い始める。ちょっと息を抜いて眠気を追い払い、かの女
はまた仕事に立ち向かう。

「明日の朝出勤したときに20個納めなきゃいけないんです。残業代はもらえるけど、1
個250ルピアにしかなりません。こんなことを続けていたら、倒れちゃうわ。」


コシヤトゥンの勤めているプラスマ工場も輸出注文をこなすために増産にやっきになって
いる。しかし作業場で残業させるのでなく、作業員の自宅で仕事をさせる方式が採られて
いる。主婦を夜中まで作業場に居続けさせることなどできるわけがないから、夜になれば
作業場は消灯して休むのである。

プルバリンガの付けまつげ製造プラスマ生産者の間で自宅残業は既に常識と化している。
一部の従業員にノルマを与えて、自宅で働かせているのだ。しかし従業員は労働強化と収
入増を天秤にかける。満足できない収入で労働を強いられたなら、従業員はチャンスを捉
えて別の世界へ飛び去って行くかもしれない。

勤続2年目に入ったコシヤトゥンの基本給は月額55万ルピア。プルバリンガ県最低賃金
の76.5万ルピアより少ない。毎月残業代が上乗せされるから、平均して月収は67.
5万ルピアくらいにはなる。

1年前に夫が合板工場を解雇されていまだに無職のままだから、一家の生活はコシヤトゥ
ンの双肩に掛かっている。そんなコシヤトゥンに外資付けまつげ工場から誘いがかかった。
月給85万ルピアが先方の条件だ。かの女はそれを拒まなかった。

「わたしは偽善の仮面をかぶったりしません。経済的な負担が重くなる一方なんだから、
収入が増えるチャンスを拒む理由はないわ。わたしは家族のことだけ考えています。」


ロイヤルコリンダ社で働いているムファリダさん27歳のケースも似たようなストーリー
だ。この大規模工場に移る前、ムファリダは別の小さい工場で4年間働いていた。前の工
場でも残業が求められたが、工場内残業だったので深夜に若い娘がどうやって帰宅するの
か、その問題がかの女をいつも悩ませた。もしも乗合小型バスが捕まらなかったら、朝ま
で路上にいることになりかねない。若い娘がそんなことをすれば、身の安全は保証されな
いのだ。帰宅の足が気にかかって、ムファリダは残業どころでなかった。

大きい工場から誘いがかかったとき、かの女は迷わずそれに応じた。給料があがるだけで
なく、残業する従業員にファシリティが用意されている。従業員を自宅まで送るバスを工
場側が用意しているのだ。新しい工場でムファリダは憂いなく残業にいそしんでいる。
「ここでは、勤勉な従業員にボーナスが出るそうです。」そうかの女は言う。


しかしプラスマ生産者が行っている自宅残業システムにもメリットがある。工場からのヘ
ッドハンティングでプラスマからホッピングする者がいる一方、工場で働いていた主婦た
ちが大中規模の工場を退職してプラスマ作業場に移るケースも多発している。プラスマの
方が気楽に仕事ができるというのが、多くの主婦たちの吐露している心情だ。

給料その他の条件を他より良いものにすれば優れた人間を引き抜くことができ、あるいは
前からいる作業員がもっと働くようになるという資本主義論理はインドネシア人にあまり
有効でないということをそれは意味しているのだろうか?[ 続く ]