「日語とイ_ア語の同音異義語(1)」(2024年10月22日) インドネシア語には日本語と同じ発音の単語が実に多い。日本でちょっと離れた場所から インドネシア語の会話が聞こえてきたとき、最初は日本語の会話だと思った、というイン ドネシア語を知らない日本人からのコメントがある。その勘違いの原因は同じ発音の単語 の多さに帰せられるようにわたしには思われる。ということはすなわち、音声言語として の特徴が日本語に似通った面を持っていると言えるのではあるまいか。 日本語がモーラ言語であるのに対してインドネシア語はシラブル言語だから、子音の扱い は日本語よりも複雑だ。そうではあっても、インドネシア語の伝統的な発音(つまりはム ラユ語本来の特徴)は子音が弱く発音される傾向を持っている。そのために母音がたいへ ん優勢に耳に聞こえ、その点で日本語の発音との類似性を感じることがしばしば起こり得 たのも間違いない。しかし現代イ_ア人は子音を西洋語風に扱うスタイルに変化してきて おり、ムラユ語風の発音から離れつつあるように感じられる。 ムラユ語に近い位置関係にあった昔のインドネシア語では、子音が続く単語はたいてい子 音の間に弱母音が挿入されて重子音の音が弱まるのが通常だったものが、現代インドネシ アでは昔使われていた弱母音を排除する方向性が進展している。子音だけの発音になれば、 子音の音が強まるのは疑いがない。 例えばイギリスやフランスを表す昔の綴りはInggeris, Perancisと書かれていた。ところ が現代綴りはInggris, Prancisに変化している。サンスクリット語源ではあるがムラユ語 を通してインドネシア語に入ったputera, puteriでさえ、昔の弱母音を含む綴りから現代 インドネシア語ではputra, putriと書かれるようになった。マレーシア語では今でも相変 わらずInggeris, Perancis, putera, puteriと綴られているというのに。 とはいえ現代インドネシア語の難点である、/e/文字の発音の強弱が不明瞭になっている 現代正書法の欠点を克服する手段として、この弱母音を排除するアイデアは軽くない意味 合いを有している。かつては/e/文字の発音の強弱を示すためにアクサン記号が付けられ ていたのだが、1967年の正書法変更でアクサン記号が外されてしまった。その理由は 確か、アクサン記号を/e/文字の上に追加できないタイプライターの方が一般的だという ことだったように記憶している。 そのためにインドネシア人の間でも混乱が発生し始めた。強母音の「エ」と弱母音の「ウ」 が併存する単語が増え始めたのだ。negeriの正しい発音は、KBBIによればヌグリとさ れているのだが、ネグリと発音するインドネシア人が大勢いることを読者もきっとご存知 にちがいあるまい。 どこやらの地図で行われているような、発音がよくわからないインドネシアの地名に使わ れている/e/をすべて「エ」音でカタカナ書きするような粗雑さではなかったにせよ、こ の現象はインドネシア人の発音を混乱させることになってしまった。もしも弱母音の/e/ が綴り字から消滅してしまえば強母音一本やりになるので、いくら粗雑な神経でも間違い を起こすことはなくなるだろう。 だがなかなかどうして、本来のムラユ語発音は弱母音/e/のほうが圧倒的に多く、強母音 の/e/が出現する方が稀だった。西洋語の摂取に伴って強母音/e/の比率が増加したものの、 この問題をそう簡単に片づけることも難しいだろう。 KBBI第四版を開いて同一発音の単語(複合語にすれば日語単語になるとそのとき瞬間 的に閃いたものも含めている)をかき集めてみたところ、5百個近くになった。これはあ くまでも発音を基準にしており、綴りの一致に基づくものではない。たとえばikan(魚) の発音は語尾が[n]になっており、日本語の「いかん(遺憾・行かん等)」はローマ字で こそikanと書かれるものの、インドネシア語音写法に従うと/ikang/となるので、このお 遊びでは発音不一致と判定していることをお断りしておきたい。端的に言うなら、ここで はローマ字が一切無視されて、日本語がイ_ア語正書法で音写されていることをご了承願 いたいということなのです。 多分、わたしの気付かなかったものがもっと他にもあるように思われる。日語とイ_ア語 の音声言語としての類似性の高さに読者のご同意を得られるだろうか。[ 続く ]