「インドネシア大統領パレス(42)」(2024年11月22日) さて、マヤデナワ王のそんな小細工は神の意志に動かされている軍勢に通じなかった。軍 勢はそれを見破り、マヤデナワ王を追ってきた。王は神通力を使って森の中に泉を作り、 有毒な水が湧くようにした。喉を乾かせていた軍勢は次々にその水を飲んだために大勢が 死んだ。「これはいかん。」と思ったインドラ神はその近くに別の泉を湧かせ、毒水を中 和させる効能をその水に与えた。 別の話では、マヤデナワを倒したあと、悪王によって悪に汚染されたブダフルのすべての 泉を善に戻すためにインドラ神は自分の剣を地面に突き立てたと語られている。するとそ こから清浄な水が湧いてきて、民衆はまた昔の浄い水を利用できるようになったというの がこの別バージョンの内容だ。 いずれにせよ、インドラ神が作った清い水が湧く泉を民衆はTirta Empul(聖なる水)と 呼ぶようになった。ティルタンプルは今でも地元民にとっての重要な水源として使われ、 ヒンドゥ宗教儀式、沐浴、生活用水の取得などがそこで行われている。 30もの噴水口が壁に並んでいるティルタンプルという公衆湧水施設はチャンドラバヤ・ シガ・ワルマデワ王の命によって西暦962年10月に完成し、後になって1178〜1 255年に全バリ島を統治したマスラ・マスリ王がそこにティルタンプル寺院を建てさせ た。その間に2百年以上の歳月が流れている。 ティルタンプルにやって来るバリ人ヒンドゥ教徒は涼しい環境で新鮮な水を使う水浴を楽 しむことを目的にしているのではない。噴出口からほとばしり出てくる水の溜まった深く ないプールに身を浸しながら、落ちてくる噴水を頭に受け、ひとりひとりが独自の宗教儀 式を行っているのである。かれらにとってそこはスパでなく、自己完成と浄化を目指す修 行場になっているのだ。 個々の噴水口にはPancuran Cetik、Pancuran Sudamala、Pancuran Pengelukatanなどとい った名前が付けられている。毒、除厄病、癒などの名前をいったい誰が付けたのだろうか。 バリ人はこの湧水が自分たちに繁栄を導く魔力を持っていると信じている。実際、ティル タンプルからあふれた水はパクリサンフル川とプタヌ川に流れ込み、それらの川の流域に 民衆が作っている水田や畑を潤して民衆に繁栄をもたらしているのも事実なのだから。 バリ島の全ヒンドゥ教徒にとってティルタンプルは、年に一度は訪れなければならない水 の総本山の役割を担っている。ティルタンプルの西方の村々に住む住民は昔、ティルタン プルのすぐ西側にある大統領宮殿を抜けてそこへ行かざるを得なかった。宮殿敷地内を通 るのだから宮殿の世話をしている宮殿官房の定めた規則に従わなければならず、宮殿表門 の門衛に入場許可を求めることになる。 その無駄な手続きを解消するためにメガワティ大統領が丘の下を抜ける地下道を作らせた。 今では、民衆は110メートルのトンネルを通っていつでも自由にティルタンプルへの行 き来ができるようになっている。 ただしヒンドゥの大祭日だけは別だ。大祭日には着飾った民衆が頭の上に供物を載せて行 列を組み、わざと大統領宮殿の中を通ってティルタンプル寺院に詣でるのである。ガルガ ンやサラスワティ祝祭日には毎年何千人もの民衆が大統領宮殿の中に華やかな賑わいをも たらしている。[ 続く ]