「インドネシア大統領パレス(47)」(2024年11月29日)

スハルト大統領は自邸に住んだから、昼食も自宅に帰ってティン夫人と一緒に食べた。お
好みメニューは薄いココナツミルクで作ったロデ料理、テンペ、タフバチュム、魚や肉の
炒め料理だった。ビナグラハで執務中に摂るおやつは茹でたシンコン・バナナ・ピーナツ。

ハビビ大統領は愛妻弁当が頻繁に届けられたことで有名だったが、かれはホテルのシェフ
を雇って自宅で料理を作らせていたそうだ。もちろん、愛妻のアシスタントとして作って
いたにちがいあるまい。

メガワティ大統領も昼食を自宅で摂った。メニューは普通の家庭料理だったようだ。時に
はタンパッシリン宮殿で出されるkalasan pakisを食べたくなって、タンパッシリン宮殿
厨房シェフにジャカルタへ送るように依頼することがあった。telur abonという個性的な
料理もタンパッシリンのお得意料理で、やはりかの女のお気に入りになったトゥルールア
ボンを求めることもあった。

アボンというのはミートフロスを指していて、肉が素材になるのが普通だが、この卵アボ
ンは鶏卵がデンブ状にされたものだ。これは塩とニンニクで味付けした鶏卵を多量の油に
入れて高熱で処理するのだそうだ。


大統領が自邸に住んだ時代、宮殿の厨房は大いに暇だったそうだ。しかしワヒッやユドヨ
ノの時代には、宮殿厨房は活気を取り戻した。宮殿官房は腕扱きのシェフを雇用した。腕
扱きのシェフに求められたのは高級な外国料理を作る能力でなくて、インドネシアで普通
に作られている家庭料理をいかに美味しく作るかという能力だった。

ユドヨノ大統領の一家はsayur bayam, tempe tahu, そして普通の魚や肉の料理を食べて
いた。大統領自身はおやつにtahu gorengをつまむのを好んだそうだ。しかし時にはそん
なメニューに飽きて、nasi gorengを厨房に依頼することもあった。シェフは腕を振るう
機会を得て歓んだことだろう。

ボゴール宮殿のパヴィリオンディヤバトゥリニに住んだジョコ・ウィドド大統領はソロの
シェフを連れてきてお好みのメニューを楽しんでいた。sup ayam, tumis pepaya muda, 
oseng tempe, mi ketoprak, ikan teri gorengなどだ。おやつにはlento, bakwan jagung
などといったものが出た。かれはジャムゥも毎朝欠かさない。temulawak, jahe, kunyit
のジャムゥがご愛用だ。

今では、ボゴール・チパナス・ヨグヤカルタの宮殿で歴代大統領が好んだメニューが定番
料理として相伝されている。lodeh rebung, nasi goreng petai, sayur pakisなどがそこ
での特別な伝統メニューになっているのだ。コーヒーの友に供される茹でおやつ類も同様
だ。グドゥンアグン宮殿にはもち米粉・若ヤシ・グラジャワ・ダウンスジで作られたkue 
kipoもある。インドネシア大統領宮殿の厨房はとても庶民的なのである。[ 続く ]