「中華イスラム(終)」(2024年12月04日)

2010年の国勢調査で種族別人口統計が公表された。その中に華人という項目があった。
インドネシア国民中の華人は283万人という数字がそこに示されていた。総人口比で
1.2%だ。

ところが2010年ごろの世界の常識としてインドネシア在住華人は5百万人とか8百万
人などといった数字がインターネット内で躍っていた。どうしてこんなとんでもない違い
が出現したのか?

インドネシアの国勢調査が示している華人人口は自分のアイデンティティを華人と感じて
いる人間の数だ。だからかれらは多分、祖先の祖国に危急が起これば立ち上がる可能性を
持っているだろう。

一方のネット内で躍っている数字は、専門的な学識を持っただれかが推定で算出した数字
でしかない。父が華人であれば子供はすべて華人であるという父系主義の残滓だろう。華
人の血が混じっている人間はこれくらいいるはずだ、というのがきっとその数字なのでは
あるまいか。たとえ華人系の血が体内に流れていても本人自身が自分をジャワ人やスンダ
人と思っている人間が問答無用でその数字に中に含まれている可能性が感じられる。

その結果、インドネシアには8百万人の親中国派戦力がいるのだという何の根拠もない影
を、何かその種の判断を行いたい人に提供しているのではないだろうか。本当は5百万を
超える華人子孫が自分のアイデンティティを違う文化にしているというのに。

インドネシア在住華人はどんな暮らしをしているのか、という質問を発するひとがいる。
純血華人がインドネシアに来て住み着いているケースから、遠い祖先に華人の血が混入し
ただけの、ほとんどジャワ人あるいはスンダ人のひとりというケースまで、千差万別にな
っている人間の暮らしの様子をどうやって説明できると思っているのだろうか?おまけに
華人なのだから中華文化の中で暮らしているというイメージを質問者は既に頭の中に描い
ているようで、この種のひとびとに「インドネシア在住華人の多くはムスリムですよ」と
いくら説明しても、まるで頭の中に入って行かない。


2006年のレプブリカ紙に華人ムスリムに関する記事が掲載されていたのをご紹介しよ
うと思う。これは南スラウェシ州在住の華人系プラナカンムスリムが抱えている悩みとい
う内容の報道記事だった。

ジャカルタのクウィタンやラウツェのモスクのような、中華風建築様式のモスクを持ちた
いとかれらは願っているのである。決して華人色を押し出したいという尊大さがその原因
なのでなく、普通のモスクへ行くのが女性にとってつらいということが最大の理由になっ
ている。一見して華人系と判る女性が礼拝装束でモスクへ行くと、プリブミの男たちが奇
異の目で、と言うよりむしろ不審の目でにらみつけるのだそうだ。特にイスラムに入って
間もない女性たちはその視線に耐えられず、モスクへ行くのをやめるようになる。

インドネシア中華イスラムユニオン(PITI)のマカッサル支部はこの問題の解決策を検討
し、ジャカルタにあるような中華風建築様式のモスクを華人ムスリムが使うことで、現在
あちこちで直面しているその種の問題が緩和されるようになるのではないかという結論を
出した。

PITIのマカッサル支部に会員はまだ百人くらいしかいないものの、南スラウェシ州に華人
ムスリムは5千人くらいいることが分かっており、その多くはスングミナサ、ゴワ、ガレ
ソン、タカラル、マカッサルに集中しているそうだ。

PITIは地元の諸機構にそのアイデアを諮り、州庁からは物心両面でのサポートを約束して
もらった。州知事との会見も近々行われる予定になっていて、知事とはより具体的な建設
計画についての話し合いになるものと見られている。また州議会も副議長が好意的な見解
をPITIマカッサル支部長に表明している。[ 完 ]