「大郵便道路(10)」(2024年12月26日) 一番速い乗り物はカハルドンダンで、ジャカルタ〜ボゴール間39パアルをおよそ8時間 で走り、ボゴール〜チアンジュル間35パアルを12時間で踏破した。プダティがカンプ ンで牛や水牛を取り替えるように、カハルドンダンもカンプンで換え馬を用意している者 のところへ行って馬を取り替えた。 旅をする者の困難さは、特に公用馬を使わない者にとってたいへん大きいものだった。し かしプリアガンでの旅は感嘆すべき大自然の美を旅する者に堪能させてくれた。 ジャカルタから8パアルの距離にあるジャティヌガラを過ぎると、水田・農園・畑そして 時おり家屋がいくつか集まった集落が視界に入るようになる。前方には2,211メート ルのサラッ山と2,958メートルのグデ山が遠くに見え、その姿が少しずつ青色から緑 色に変化して輪郭をはっきり示すようになるころには空気が徐々に涼しさを増した。 パアル27の近くまで来るとボゴールの町が見えて閣下の御殿のドームが視野の中に浮か びあがる。パアル37に達するとヨーロッパ人の家々が初めて目に映る。 ヨーロッパ人地区と華人地区を通り過ぎるとプリンス アクアボアキの所有地であるスカ サリに入り、王子の御殿があるタジュル、そしてリー・キムホッの妻ウイ・ペッニオが住 んだガドッに至る。そのあたりから急峻な上り坂の難儀が感じられはじめる。 1,500フィートの高地にあるガドッは硫黄を含んだ温泉ススパンがあるので有名だ。 ボゴールやもっと遠くからも大勢の人がそこへ湯治にやってくる。ガドッの名前はリー・ キムホッの作品「Melayu-Betawi」や「Kitab eja」などにしばしば登場する。きっと最愛 の妻をしのんでのことだろう。 街道は高度を上げ、自然の景観も華々しく美しさを増す。大郵便道路のいくつかの場所で 広々とした遠景を見渡すことができる。後ろを振り返れば、遥か下の方にボゴールの町が 見える。巨大な緑の広場に集められた赤屋根白壁の、まるで子供の玩具の家のよう。 プンチャッでは大郵便道路の左右にある谷の崖縁にシダ類がたくさん生えているのが目に 新鮮だ。標高5千フィートのプンチャッからチアンジュルの町が、まるで巨大な茶碗の中 にあるように見える。大気と風の冷たさが骨の髄までしみ込んでくる。 プンチャッでの休憩場所はムスリムの礼拝場所だった窪地の~ガリ~グルだ。元々道路脇に 浅い泉が湧いていて、旅人はみんなそこで一休みする。人を畏怖させる神秘性が感じられ るために、ひとびとは香を焚き花びらを撒き、花傘を突き立て、0.5センや1センのコ インを捧げて旅の無事を祈った。 プンチャッを超えた大郵便道路は相変わらず曲がりくねって上り下りするが下りの方が多 い。標高3,300フィートのチパナスを過ぎてほどなく、チアンジュルまであとおよそ 13パアルという場所まで来ると、そこには水温43℃の温泉がある。ファン イムホフ 総督がこのチパナスの涼しい場所に1744年に御殿を建てようとしたものの、実現され なかった。そこには1812年に軍病院が建てられ、そのあとではじめて現在の御殿が建 てられた。 チパナスから標高3,500フィートのシンダンラヤや3,300フィートのパチェッへ は遠くない。最後に旧道はその場所から右に折れて急斜面を下る。その道をたどれば古い アーチに達する。われわれは標高1,600フィートのチアンジュルに到着したのだ。 [ 続く ]