「ダンデルス(4)」(2025年01月07日)

総督は工事の続行を命じたものの、スルタンはそれに応じなかった。スルタンはそれを人
道性の問題と見たようだ。だがダンデルスはそんな議論で相手を説き伏せるような真似を
せず、命令を遂行するか、それとも総督命令を遂行する人間におまえのポジションを譲る
かという最後通牒を示した。スルタンが廃位させられてダンデルスに従順な人間に代わり、
王宮の大臣が死罪を与えられた。

新スルタンが作業者の徴募を始めたとき、バンテン王国の中は既に反ダンデルスの風が吹
き荒れていた。そんな中で新スルタンに労働力を集められるわけがない。民衆の間に反オ
ランダ叛乱が開花し、ダンデルスはそれを容赦なく叩き潰してスロソワン王宮を破壊した。
ウジュンクロン要塞は永遠なる失敗に帰したのである。

この話とオーバーラップしているのが多分、ダンデルスがバンテン王国中心部を直轄領に
することを望み、王国の首都をウジュンクロンに移すようバンテンのスルタンに命じた話
だろう。こちらの話の概要はこうなっている。


ダンデルスはバンテンスルタン国をジャワ島西端のウジュンクロンに移転させることを考
え、スルタンに道路建設を命じた。ウジュンクロンはバンテン領内なのだから、バンテン
スルタン国にそれを行わせるのが当然の理屈であり、政庁が資金を負担して行うことでは
ない。領民1千人を送り込んでジャングルを切り開き、植民のための根拠地を開くと同時
に道路を設けるようにバンテンのスルタンは命じられた。

だが人跡未踏のジャングルには猛獣が棲み、疫病があふれている。そんな仕事をしに行こ
うという領民を1千人集めるのは至難の業だった。そして案の定、ダンデルスは怒った。
部下は上司の命令を実行するだけであり、できないことをくどくど言い訳する部下など存
在する意義がない。

鉄腕将軍ダンデルスは軍にバンテンのスロソワン王宮を攻撃させて破壊した。バンテンス
ルタン国は上部構造が野に隠れて公的舞台からその姿を消したのである。そのバンテンス
ルタン国に引導を渡したのはジャワ島にイギリス統治時代をもたらしたラフルズだった。
1813年、ラフルズは野にあったスルタンを退位させてバンテンをレシデン統治区にし、
王族貴族たちを領内の地域行政担当官にした。長い栄光の歴史を誇ったバンテンスルタン
国が地上から消滅したのである。ただしバンテン王家の血筋を引く人間はたくさん地域行
政担当官として残されたために、バンテン王家の家系は現在までも続いている。

ダンデルスがもたらしたバンテンスルタン国滅亡の遠因がいずれであったにせよ、バンテ
ンスルタン国が滅びることでウジュンクロンの大自然が現代まで維持されることになった
と言えるのではあるまいか。もしもそのときに開発の手が入っていたなら、ウジュンクロ
ン国立公園は存在し得なかったかもしれない。

ダンデルスのバンテンスルタン国に対する過酷な姿勢を単なる「バンテンいじめ」と見な
すのが果たして適切なのかどうか?ダンデルスがジャワに赴いたことの最大の目的を忘れ
てはなるまい。イギリスと気脈を通じてフランス=オランダ側に銃口を向ければたいへん
なことになる唯一のジャワ島北岸沿いの強国がこのバンテンだったのである。そんな前例
がマルクやパレンバンで既に作られていたのだから、ダンデルスの目が節穴でなかったこ
とをわれわれはそこから感じ取るべきかもしれない。

バンテンという国はダンデルスにとって、姿を消してもらいたいプリブミ国の筆頭だった
にちがいあるまい。[ 続く ]