「大郵便道路(26)」(2025年01月20日) スペインとポルトガルが先行し、ほぼ一世紀後にオランダとイギリスが地球の支配に立ち 上がった。それらヨーロッパの国々がまずアフリカで、そしてさらにアジアで各地の封建 王国を支配下に置き、自国を富ませるためにそれらの地場で産する資源を搾取した。 地場の封建領主たちはヨーロッパで作られた契約という習慣に無知だったため、先にどこ かの国と結んだ契約を、次にやってきて国が好条件を示せば即座に反故にした。かれらは 自分が言った約束事が自分を拘束するという決まりが理解できなかった。王たちは入れ替 わり立ち代わりやってくる白人たちからできるだけたくさんの利益を搾り取ろうとして約 束事を乱発し、白人たちが約束の不履行に対して軍事力を使い始めた時、はじめて驚愕し た。こうしてプリブミ王国はその国を取り込んで支配し搾取しようとするヨーロッパの国 々の属国に陥ったのである。 支配権を握った国は自分の資産になったその国土を他のヨーロッパ勢力から守るために要 塞を構え、領土の軍事力を高め、領民を宗主国の利益に仕える僕にした。非ヨーロッパ世 界のあらゆる財とパワーがヨーロッパを豊かにし、栄えさせ、強化し、発展させるために 絶え間なく吸い取られるようになっていった。 そのコロニアリズムとインペリアリズムは第二次世界大戦が終止符を打った。そしてやっ てきた冷戦時代がイデオロギーと政治システムの優秀さを競う舞台劇を演じ、人類はその 勝者を確定させた。 それらの体験を踏まえた西洋世界がふたたび昔の夢の再現に取り掛かった。ネオコロニア リズムが非西洋世界を通商と生産における資源供給と消費市場というポジションに落とし 込み、第三世界の諸国政府は西洋世界の市場を見張るセキュリティあるいは監督者として の機能に特化するように仕向けられた。 旧コロニアリズムによって既に栄え、強くなり、進歩した北側の諸国がその地位を維持し て世界を支配し続けるために、南の諸国は消費者になる立場を強いられている。あの手こ の手の支配手段の中には南の諸国を借金漬けにすることも含まれている。世界の終末がや って来ようとも借金から解放されることは金輪際起こらないだろう。というのがプラムデ ィヤ・アナンタ・トゥルの目から見た世界史観のようだ。 18世紀のバタヴィアはQueen of the Eastの賛辞に輝いた。豪壮な建物に多数の奴隷を 抱えて華麗な生活を展開したVOCの上級職員たちは、スパイスをはじめとする東インド の諸資源を山のように積んで、掌握した海上支配権が保護する国際航路を帆に風切って往 来するVOC船団の栄光の姿を女王の栄華と威厳にたとえたにちがいない。 しかしその栄華と威厳は体内を蝕む腐敗に冒されていた。私生活での栄華栄耀を具現させ るための金はVOC高官と地場の封建支配層間の癒着が作り出していたものだった。汚職 はヨーロッパの法と倫理基準によって犯罪とされていたにもかかわらず、アジアの封建支 配層にそんな観念の持ち合わせはなかった。かれら封建支配者は自分の統治を受ける民衆 が自分に差し出す貢物を受け取る権利を持っていると考えていた。ある利権を得ようとし て大きな貢物を差し出す領民のひとりにその企画をさせてみることを決める権利が自分に ないなどと考える封建領主はいなかったはずだ。 素朴なケースでは、自分の能力を超える貢物を領主に差し出すことがその者にとっての大 きい誉れであるというのが民衆側の社会常識になっていた。 ダンデルス時代を体験したムラユ作家のひとりアブドゥラ ビン ムハンマッ・アル ミス リが1815年ごろに書いた文の中に、時代の世相を風刺したものが見られる。 ジャワの地にあるすべての富はオランダに送り届けられなければならない。そのために下 っ端係員が港の役人をだまし、港の役人は事務所の書記係をだまし、書記係は監視官をだ まし、監視官は東インド参議員をだまし、参議員は総督をだまし、総督はビッグボスの国 王をだました。そのだましの連鎖の中ではプリブミも西洋人も相互にからみあっている。 [ 続く ]