「福建語好きのイ_ア人(終)」(2025年01月23日) 正常な時代の物価はこんなものだった。 チュペンで豆腐あるいはテンペが一切れ買えた。 1センで白飯ひと包みとクルプッ、あるいはクトゥパッサユルひと皿。 スピンチャンではナシウドゥッに瓜の煮物またはテンペのおかず。 スゴバンならソトブタウィを一杯。 スクティップで鶏肉あるいは牛肉のおかずとナシラムス。 米1リッターは普通クラスで5〜7セント、高級チアンジュル米は8セント。 タバコは20本入りJinggoひと包みが3セントだった。 ムスリムの学校であるマドラサの月謝は20セント。 労働者はひと月1リンギッで暮らしていた。ブタウィ人の奥さん方が1リンギッコインを 金メッキして装身具として身に着けていた。 5フルデンや10フルデン紙幣はルバランのための買い物をするときに手にするくらいで あり、年間を通してかれらの日常生活の中で身の周りに転がっているような品物でなかっ た。ルバランのための晴れ着をタナアバン市場へ買い物に行ったときにそういう紙幣が飛 び交うのである。店主は釣銭を求めて近隣の同業者を巡り歩いた。いくら値上がりシーズ ンであっても衣料品の価格は廉いものであり、高額紙幣で支払われたら大量の釣銭が必要 になるに決まっている。だから、その客が最初に買い物した店にとってはいい迷惑という ことになるだろう。二軒目の店では、その客はもうお釣りの小銭を手に入れているのだか ら。 ある老女は1949年に結婚したとき、結納が15フルデンだったことを覚えている。安 くあげるひとは5フルデンの結納で結婚を決めた。 自転車の価格は2百フルデンくらいだった。自転車は一般庶民にとってたいへん高価な資 産になっていた。四輪自動車など、とても買えたものでない。四輪車を持っているのはオ ランダ人・華人・一部のアラブ人などの富裕階層だけだった。自動車をチャーターする場 合、乗客は一台につき最大5人まで。料金は30セントに走行距離数で1キロ当たり10 セントが加算される。6時から23時までがその料金で、23時から6時までは5割増し になり、最低料金が1フルデンだった。1910年の四輪自動車バタヴィア登録台数は5 千台に達していなかった。 バタヴィア市内を走るトレムの乗車料金はコタ〜メステルコルネリス間、あるいはコタ〜 タナアバン間が10セントだった。 インドネシアの完全独立が達成されたとはいえ、植民地時代のクティップやピチスは19 55年ごろまで世間に流通していた。kue gomblong, lupis, apemなどの菓子類は値段が 10セントだった。 たいていの家庭では、学齢の子供の一日の小遣いにピチスを1個渡していた。ガドガドに 白飯を付けた食事は一人前50セント、ナシラムスにおかずを添えたものは一人前が75 セント。 そういう食べ物を売るワルンはブタウィ人が店主だった。ジャワから来たひとびとはたい ていコーヒーワルンを営業し、コーヒーや甘い紅茶におつまみのピサンゴレンやテンペタ フゴレンを客に供した。飯を用意しているジャワ人ワルンがなかったわけでも決してない のだが、おかずはせいぜい炒めたカチャンパンジャン程度のものしか置いていなかった。 ワルンの店構えや商売の規模はブタウィ人ワルンの方が断然大きかった。 1950年代のジャカルタの街中で、es売りが街のすみずみにまで広がった。氷と言って も、氷を生で売るのでなくてチェンドルやタペを甘い飲み物に混ぜ、そこに氷を入れて冷 たくしたおやつを売るのだ。エスチェンドルやエスタペは一杯が25セントだった。 1970年代にジャカルタでPriiit Ji-goという言葉が流行した。プリーッというのは警 官が吹くホイッスルの擬音だ。ジゴは25、つまり25ルピアを意味している。交通違反 を見張っている警官に一声プリーッとホイッスルを吹かれたら、25ルピアが財布から出 ていくという世のならいをその句が表している。いやいや、ジゴは罰金じゃなくてニギニ ギのことなのだ。「やあ、おまわりさん。ご苦労さんです。」と握手して25ルピアを相 手の手に押し付ければ無罪放免になるというのがインドネシアの世のならいだった。 2003年ごろはノバンが相場だと言われていたが、外国人が運転しているとそういう金 額では放免してくれない。お互いに仕方なく違反切符を切るということになる。中には、 違反金額はこれこれだ、とメニューを示し、違反金額をわたしに預ければわたしが納めて おく、と向こうから言い出したケースもあった。交通警官が違反金額一覧表を持って現場 勤務をしている姿を読者は想像できるだろうか? わたしがジャカルタで暮らした時代には、ジャカルタでハンドルを握ると警官との対人接 触が避けられないものになっていた。道理で日本企業駐在員に運転禁止令が出されたわけ だ。いや、今でも運転マナーを理由にして禁止されているようだ。[ 完 ]