「ブタウィ語の対人呼称(前)」(2025年02月11日) ブタウィ語の対人呼称でインドネシア全国を席巻したものがある。オレ‐オマエを意味す るgua/gue - lu/loだ。これは元来が福建語の「我‐汝」の原語発音であって、ブタウィ 語にとっては借用語なのである。しかし首都ブタウィという価値観のゆえにブタウィ人が 使っている対人呼称を全国にいる首都憧憬者が愛用するようになったのではないかという のが、わたしの推測だ。もちろん、バハサガウルを経由して全国拡大したプロセスを見落 してはならない。 ブタウィ人が自分を指して使う一人称代名詞にはgua/gue. aye, kite, aneがある。アネ はアラブ語のanaに由来しており、またアイェやキテはムラユ語のsayaやkitaに由来して いると考えられる。 基本的にこのような一人称代名詞は子供の時期から同輩の間で使われるものとされていて、 自分より年上の身内や知り合いに対しては自分の名前を一人称に使うのが普通とされてい た。 自分の家族を呼ぶ際の二人称代名詞は父母兄姉弟妹という言葉がそのまま使われるが、あ まり年齢の離れていない年上の親戚や知り合いに対しては、男はAbang、女はMpokが使わ れた。同輩や年下の相手に使われる二人称代名詞はlu/loやenteだ。エンテもアラブ語の antaに由来している。 三人称代名詞の場合は、意図されている人間と話者との関係が完全に不問にされて、die が使われた。ただし、自分が畏敬する女性あるいは男性に対して女性が相手をディエと呼 ぶことも行われる。その場合のディエは二人称にされているわけだ。 上の代名詞はすべて単数形であり、複数形の場合は一人称がkite orang、三人称ならば die orangになる。三人称複数を示すmerekaあるいはmarikaは書き言葉として使われるだ けで、会話には使われない。 自分の家族に対する呼称としては、父親がbabe, 'mba, ayahなどだ。華語のbabaがbabeに、 アラブ語のabaが'mbaになったようだ。母親に対してはemak, 'nyak, umi, ibuなどが使わ れる。 父母の兄弟姉妹、つまり「おじ・おば」に対しては、父母より年上の場合に'ncang、父母 より年下であれば'ncingが使われた。これはブタウィコタ地方で一般的な呼称であり、ブ タウィピンギル地方では'ncangでなくてuwak'、'ncingの代わりにおじさんはmamang、お ばさんは'nceと呼ばれた。 祖父母であれば、祖父はengkongあるいはkakek、祖母はnyaiあるいはnenekが使われた。 結婚した夫婦は妻が夫をアバンと呼ぶものの、夫は妻を本人の名前で呼ぶ。 舅や姑は婿や嫁をmantuと呼び、婿や嫁は舅や姑を伴侶が呼ぶ呼び方に従って呼んだ。自 分の子供が結婚した相手(子供の伴侶)の両親はインドネシア語でbesanという言葉が日 常用語として使われている。日本人はそれに対応する「相親・相舅」という言葉を持って いたようだが、もうほとんど死語になっているように思われる。結婚は子供本人の問題で あって、子供の親にとって子供の結婚は社会生活の中での重要度がほぼ消滅したことをそ れが示しているのではあるまいか。 ベサンという言葉は婿や嫁の両親を示すものであり、結婚したふたりの双方の親同士の関 係もベサンという言葉で表される。しかし婿や嫁は自分の配偶者の両親をmertuaと呼んで ベサンという言葉を使わない。つまりベサンという言葉は子供同士が結婚したために親戚 になった親同士の関係を示しているのである。ブタウィ文化でベサン同士はたいてい相手 をベサンと呼ぶのが普通だが、男親同士はお互いにアバンを使うこともある。 伴侶の兄弟姉妹はインドネシア語でiparと呼ばれる。兄嫁・姉婿はkakak ipar、弟嫁・妹 婿はadik iparだ。カカイパルが男であれば呼びかけの際にアバンと呼ばれ、女の場合な らば'mbokと呼ばれる。アディッイパルは男も女も本人の名前が呼びかけに使われる。 伴侶の祖父母はkumpiあるいはuyutが呼称になる。[ 続く ]