「ブタウィの結婚(7)」(2025年03月18日)

すると新婦の側のパントゥン名人が応じてパントゥンを唱える。
Anak kude naek kerete
Tukang kue naek sepede
Kalo emang itu tujuannye
Tentu ade syaratnye

シャラッ(条件)は何かと言うと、新婦の側のシラッ名人がのっそりと前に出てきて、シ
ラッの型を決めるのである。果し合いでかたをつけろという要求だ。

新郎の側のシラッ名人も前に出て型を決め、ふたりの立ち合いが始まる。この試合は常に
新郎の側が勝つことになっている。新婦の側のシラッ名人が路上に転がると、集まって見
物している隣近所の住民が拍手喝采。

しかしそれだけでは終わらない。新婦の側の男が言う。
Cukup...cukup! Abang punye jago memang jempolan. Tapi belon bisa, Bang.Tuan putri 
minta dibacain beberape ayat Alquran. Kalo sanggup boleh masuk, kalo gak sanggup 
pulang aje deh.

こうしてシケ名人の出番となる。そうやってパントゥン名人やジャゴシラッを一緒に連れ
てくるのは新郎がフツーの男の場合であり、新郎自身がジャゴシラッを自認していたり、
並みを超えたパントゥンの能力を持っていれば、自分でそれらを演じることもある。

家の中の扉の影で外のパランピントゥを見ている新婦が新郎のそんな姿を目の当たりにし
たなら、ユーフォリアで我を忘れるかもしれない。


パランピントゥの演技がつつがなく終わると、舅が出てきてパントゥンを披露する。
Pisang batu pisang lempenang
Gado-gado kacang tane
Orang atu banyak yang pinang
Kalo jodo masa ke mane

そして「さあさあお入りなさい」と新郎を抱きかかえるようにして家の中に連れて入り、
一休みしてからドゥドゥッニカの儀式が開始される。


新郎の側が新婦の家にロティブアヤを贈るのは、ブタウィ人の結婚における義務と言って
いいほどの重要性を持っていた。ワニが貞節のシンボルと考えられていたからだ。ワニは
雄雌がカップルになると、相手を変えないで死ぬまでその関係を続けるのだそうだ。夫婦
は一生一死という言葉を実践しているワニを見倣えという教訓なのだろう。

だからワニをかたどったパンを焼き、それがペスタカウィンの際に人目につく場所に飾ら
れなければ、新郎が非常識と言って責められた。ロティブアヤは長さ60〜70センチほ
どのワニ形のパンで、雄雌のカップルとして二個が1セットになり、雌は子ワニを背負っ
ているのが普通だ。大きさは金額次第で1メートルくらいのものまで作られるから、大枚
払って巨大なものを作らせ、見栄を張る新郎もあった。

この慣習がいつごろ始まったのかは定説がない。それがパンであるという点をとらえて、
早くともヨーロッパ人がヌサンタラにやってきて小麦粉素材の食べ物を紹介してから始ま
ったはずだ、という理論を唱えるひともあるのだが、古老の中には「そんなことを言うや
つはひっぱたいてやる。」と怒り顔を示すひともいる。ずっと昔には、米粉やサゴ粉でロ
ティブアヤを作ることもあった。自分は幼いころにそれを見たことがある、と老人は言う
のである。

1932年生まれの別の古老は、自分が幼いころ、結婚式にロティブアヤは必ず飾られて
いたと語っている。素材が何であれ、ワニの形をしていればよいのだ。しかも食べるもの
でなくて飾るものなのだから、硬くカリカリに焼いて日持ちするようにしなければならな
い。[ 続く ]