「ブタウィの結婚(9)」(2025年03月20日)

川に対するスドゥカの儀式は、本当のところを言えばイスラム教義に反する行為だ。19
70年代ごろから、ブタウィ人イスラム指導層がブタウィ人社会に迷信と判断されるその
行為への批判を開始したために、川へのスドゥカが姿を消していった。

しかし大自然の力を象徴するワニへの信仰は、形骸化しながらもロティブアヤの伝統とし
て残ったと言えるかもしれない。今や、ブタウィ人の結婚で新婦の一家に贈られるロティ
ブアヤははるかに柔らかく、そしてワニの腹からチョコやチーズが出てくるものになって
いる。こんな時代になったなら、昔ながらの硬くて味のないロティブアヤを贈る新郎は何
を言われるかわかったものでない。


上で述べたブアヤプティについても、いろいろな話がある。白ワニは普通の動物でなく、
聖性と強さのシンボルなのである。白ワニは川の分岐点に雄雌のカップルで出現するとブ
タウィ人は信じている。だから昔から、白ワニが出るのはルバッブルス川、チデン川、グ
ヌンサハリ川だと言われていた。白ワニのカップルは川の番人なのだ。そういう霊的存在
が棲み付いている場所というのは、たいていの人間が薄気味悪さを感じる暗くものさびし
い場所だ。

グヌンサハリ川にはキ スリンティルとニ スリンティルという年経た白ワニが川を維持す
るために番をしており、白ワニが人間に害や災いをもたらさないように願って住民が供物
を捧げていた。このグヌンサハリ川の白ワニは美少女アリアの失踪事件が起こった187
0年ごろ既にバタヴィア中で知られていた存在であり、ワニがいけにえを求めて水面に姿
をあらわすと持っている魔力を振るってその近くにいるだれかを運河に落とし、犠牲者を
くわえて再び水中に姿を隠すと信じられていた。
美少女アリアの失踪事件はこちらでどうぞ。
https://indojoho.ciao.jp/archives/library02.html


ブタウィのペスタカウィンでは、花嫁がたいていひとりでプラミナンに座っていることが
多いと上で書いた。もちろん、友人がそばに侍って相手をしている。

そんなところに隣人や知り合いの女衆が祝いを述べにやってくる。婚姻のシンボルである
ロティブアヤはプラミナンの近くの壁に掛けられていたり、あるいは近くのテーブルに置
かれている。やってきた女衆はまず祝い言を言うが、話題がなくなるとロティブアヤの品
評を始める。パンが焼きすぎて黒く焦げていたりすると、まだ見ぬ新郎を想像して、仲間
同士で囁き合う。
Tuh, rotinye gosong. Pengantin prianye item nih.
ワニの口が長いと、
Lelakinye mulutnye monyong.
ワニの目が大きかったら、
Kayaknye si pengantin pria mate keranjang.
などとブタウィの女衆はいかにも口が悪い。気の置けない相手に本人の目の前でズケズケ
と悪口を言うところなどを見ると、どことなく関西人に似ているような気がしないでもな
い。[ 続く ]