「ソロのバティッ(5)」(2025年04月14日)

ジャワ社会のコスモロジーにおける社会的な評価でチャリウアン活動がスピリチャル能力
研鑽よりも劣るとされているにせよ、女性が稼ぐ金銭はその一家の社会的な威厳を高める
ことに使われる。余剰の金で黄金宝石などの宝飾品が購入され、それが子孫の財産になる
と同時に、社会はそれをその一家にとっての権威のシンボルと見なすのである。

女性たちは社会的に評価の低い金銭をパサルから家に持ち帰り、その金銭で一家の社会的
権威を高めているのだ。それに関しては、女性の方が世俗的な欲望をコントロールする能
力が男性よりも優っているからであるとされている。


ジャワコスモロジーが持っていた、マテリアリズムに関わる活動はスピリチュアリズムの
それよりも劣るという社会的価値観は、キャピタリズムと市場経済がインドネシアにより
深く浸透するにつれて変化を起こしつつあるようだ。

ティティたちの世代からは、自分たちが行っている経済活動が社会的に卑下されるような
ものであるという雰囲気が感じられれない。やはりクレウェル市場で売場の主になってい
るスティヨリニさん43歳もチャリウアン行為を立派な活動だと見ている。

通称リニと呼ばれているかの女は毎朝8時に市場に来て9メートル四方の売場を開く。売
場は妹のレッノと雇い人ひとりの三人がかりで運営している。
「わたしは常にあるがままの心で商売しています。この市場では信用と正直が黄金則なん
です。お互いが正直にふるまうことで、あらゆることがらが円滑に動いていきます。」

リニの顧客の多くは再販売商人だ。自分の商品を仕入れるためにリニの売場にやってくる。
リニは隣近所の売場から商品を借りて客に売ることもよく行う。借りた商品の清算はその
日の商売を終えてから行われる。たいてい毎日、リニは大きな金額を支払う。

高校に入ってから自動車を運転できるようになったリニはしばしば母親に命じられて商品
を売場に運んだり、売れたものを配達していた。ところがリニが高校二年生のときに両親
を事故で失った。リニが高校を終えるまでおばが母の売場を経営し、リニに商売のことを
教えた。

リニは一家の大黒柱になり、4人の弟妹を大学に入れることができた。残念なことに、学
士号を得たのはひとりしかいなかったが。末っ子がまだ在学中なのでその経済負担はリニ
が支えているが、他の弟妹も結婚した者までがリニの収入を頼って来ることがある。

リニももちろん結婚しているが、まだ子供に恵まれない。夫はプルウォサリで溶接工をし
ている。リニの所得は夫の収入よりはるかに大きい。リニはクレウェル市場内の売場を一
カ所1億ルピアで購入した。しかし弟妹の中にそこで商売をしようと言う者がひとりもい
ない。これもきっと、ソロの伝統的価値観に起こった変化だろう。

ソロのバティッ産業のメッカと目されているラウェヤンでさえ、1970年代に起こった
社会変化の結果、子供を家業の後継ぎにする伝統的慣習が崩れてしまった。ラウェヤンの
バティッ生産者たちは子供たちに公務員になることを勧めるようになった。

しかし社会の変化がどうであれ、Putri Soloと呼ばれるソロ女性たちのチャリウアン精神
は少しも衰えを見せない。ソロばかりか、ヌサンタラの全土に女性のチャリウアン活動は
広がっているように思われる。[ 続く ]