「借りても返さない(1)」(2025年05月17日) 外国の言葉を摂りこんで自国語の単語にしたものを日本人は昔、外来語と呼んでいた。と ころがいつのころからか、借用語という言葉がどんどんと有力になって、外来語という言 葉は世間を狭くしていったような印象をわたしは抱いている。ところがインターネットAI にこの話をもちかけると、その二語は併立していておおよそ同義語だが意味に違いがある ということを教えてくれた。 この概念を述べるに当たってどうやら国際的に英語のloan wordという言葉が標準化され た結果、日本人はその翻訳語として借用語という言葉を作ったようだ。日本の言語学界も 国際化しなければならないのだから、当然の行為ということになるのだろう。 一方、わたしが持っている研究社「新英和大辞典」1960年版を調べると、loan word は外来語・借入語と書かれていて、借用語という言葉がまだ標準化していない時代を感じ させている。わたしの英語も日本語も今や化石のようなものかもしれない。 さて、英語のloan wordという言葉に対応する日本語が外来語・借入語・借用語と三つ揃 ったわけで、再び日本語インターネットAIにその関係を尋ねてみたところ、その三つの語 彙はおおよそ同じだけれど違いがあると解説してくれたのに驚いた。なんと、日本語イン ターネットの世界の中では、その三つの語彙がいまだに生き続けているのだ。言語に興味 を持っている日本人の中に借入語という言葉を使っている人が本当に存在しているのだろ うか?AIさんに教えられて、この珍しい語彙を使ってみんなを驚かせてやろうと考えるひ とが多々出現したら、世の中はいったいどうなるだろうか?そんなことで日本語の言語生 活が本当に豊かになるのだろうか?マイナス効果は起こらないだろうか? ちなみに英語loan wordのシノニムとしてborrowed word, borrowing, calque, imported word, loan translation, neology, paronymという7語があるそうだ。本論におけるわた しの関心はカルクやローントランスレイション以下の語彙にあまり関わっていないので、 borrowやimportedという言葉を気にかけておくことにしよう。 さて、日本語では借用語という言葉がloan wordに対応付けられたように、マレーシア語 でもkata pinjamanが対応する術語として定められた。ところがインドネシア人はあたか もそれらの流れを超越するかのように、単語の貸し借りなどはしないという姿勢を示して kata serapanという言葉を学術用語に定めた。serapという語は「浸透する・摂取する・ 吸収する」などの意味を表す語彙だ。 借りた物は返すのが人間としての義務だが、借りた言葉をどうやって返せと言うのか?返 すことに関する相談などなしに、いやいや、借りるという話を持ち掛けてすらいないし、 貸借の話を相手国としたわけでもなく、単に言葉の方がわが国に浸透してきたのでそれを 摂取しただけのことなのだ。それを「お前はその言葉を借りた」と因縁を付けられては困 る。そういうヤクザwayを広めようとしているのは誰だ!! というのがkata serapanという術語を選択した根拠ではないだろうか。上のパラグラフの 末尾は笑って読み捨てていただくことにして、その前半部分を多くのインドネシア人知識 層が実際に物語っている。 これはどうやら、「借りる」という概念が持っている文化的な差異が影響しているのでは ないかと推測し、わたしは言葉の語義を調べた。ケンブリッジ辞典によれば、loanという のは銀行等からの借り入れを意味しており、金を上乗せして返さなければならないもの、 という解説の次に、何かを貸借する行為という語義が書かれていた。 で次にborrowの項目を見ると、「誰かから何かを受け取って特定期間後にそれを返却する こと」が第一義に挙がっていた。第二義はローンと同じもの、第三義に他言語から言葉を 摂取して使うという、ローンワードの意味が記されていた。[ 続く ]