「大郵便道路(118)」(2025年05月30日) < ウォノクロモ Wonokromo > スラバヤ市中心部から大郵便道路はほんの数キロ南下してウォノクロモに達する。今や工 業地区になったウォノクロモが1857年には住民人口がわずか481人だったのだ。ま るでおとぎ話のようだ。 大郵便道路はここでカリマス川の上流にある長い橋を渡る。その橋の少し下流にジャギル 水門が設けられている。位置はウォノクロモ鉄道駅から直線距離で2百メートルほど北東 だ。1917年に完成したジャギル水門は壮大なオランダ様式の建造物であり、1996 年にインドネシアの国家文化遺産に指定された。 ブランタス川はモジョクルトで数本の支流に分かれ、そのひとつがスラバヤ川になってス ラバヤ市内に達し、更にカリマスと名を変えてウジュンガルの河口に向かう。カリマス自 体の長さは15キロほどだ。この川がウォノクロモを通過するときにまた支流が分岐し、 別れた水流は東方のマドゥラ海峡に注ぐジャギル川になる。 スラバヤ川の水量が増加すると、スラバヤ市内が洪水になるのを防ぐためにジャギル川へ の水量を増やす操作がこの水門で行われるのだ。プラムディヤがムドゥアン川と書いてい るのは多分現在のジャギル川のことだろう。 モジョクルトを本拠地にしたモジョパヒッの軍勢はジャギル水門のあるエリアで元の軍勢 との激戦に勝利し、元軍がジャワ島を去る結末に導いた。ウォノクロモは13世紀末に行 われた異民族間の古戦場だったのである。 プラムディヤ・アナンタ・トゥルの名作、ブル島四部作と銘打たれた四作品のひとつ「人 間の大地」に登場する主人公ミンケはウォノクロモの農園主の娘アンネリースと愛し合っ て結婚したが、それは農園主ヘルマン・メレマが逝去した後のことだった。アンネリース の母親でヘルマン・メレマの妾だったニャイ オントソロがふたりを結婚させたものの、 ヘルマンのオランダにいる一族がそれを許さず、アンネリースをオランダに送るようオン トソロに命じた。純血オランダ人ヘルマンの娘が純血プリブミの妻になるのは、一族にと って許せないことだった。と言うよりも、純血プリブミを一族の縁者に迎え入れることに 大きい抵抗があったのだろう。たとえアンネリースがプリブミとの混血であったとしても。 おまけに農園の経営はオランダにいるヘルマンの親族が掌握するためにウォノクロモにや ってくることになった。ヘルマンの妾のニャイ オントソロは優れた能力で農園経営を行 っていたが、ヘルマンの親族がやってくれば無一物で農園から追い出されることになる。 そんな背景の中で人種差別への批判に満ちたストーリーが展開されて行くのである。この 物語は1898年から1918年までの時代におけるものとされていて、この小説を読め ばそのころのウォノクロモの状態がよく分かる。ただし、この小説は完全なフィクション だから、そのころのウォノクロモの状況というのはプラムのイメージの中にあるものとい うことになるだろう。[ 続く ]