「じゃんけん遊び(前)」(2025年10月20日) インドネシアでも子供たちは「じゃんけん」をして遊ぶ。インドネシア語で「じゃんけん」 はsuit, suwit, sutなどと呼ばれている。ところが官選インドネシア語大辞典KBBIは suitとsutを標準インドネシア語に認定しているものの、その語義にはホイッスルや口笛 の音だけが記されていて、じゃんけんのゲームにはまったく言及していない。suwitとい う言葉は標準インドネシア語の中に存在しない。 KBBIはこのゲームをsutenという標準インドネシア語として採録している。一方、イ _ア語ウィキペディアは元々sutenという項目を設けていたにもかかわらず、項目タイト ルをsuitに替えた。わたしの語体験では、20世紀最後の四半世紀のジャカルタで耳にし たのはsuitanあるいはsuit-suitanだったように記憶している。sutenはsuitanが訛ったも のかもしれない。 インドネシアで行われているスイッは日本のようなグーチョキパーでなく、指を一本だけ 出すスタイルだ。使われる指は親指・人差し指・小指のいずれか。それぞれの指はこんな 定義になっている。 親指 = 象 人差し指 = 人間 小指 = 蟻 象はアリに負けるが人間に勝つ 人間は象に負けるがアリに勝つ アリは人間に負けるが象に勝つ インドネシアのじゃんけんスタイルは中国の伝統的なフィンガーゲームと似た形が採られ ている。日本には同じ形の虫拳というゲームが平安時代から遊ばれていた。1809年に 日本で作られた拳会角力図会の中で虫拳も親指・人差し指・小指を使うゲームとして描か れ、親指=カエル、人差し指=蛇、小指=ナメクジで、この場合はカエルが蛇に負け、蛇 はナメクジに負け、ナメクジはカエルに負けるという勝敗関係になっていた。 虫拳は平安時代から日本で遊ばれていたものであり、中国から伝わった諸文化のひとつだ ったと推測されている。唐時代の中国の書物に「ガマ(親指)>クモ(小指)>サソリ (薬指)>ムカデ(中指)>ヘビ(人差し指)>」というゲームが記されており、またそ の略系として「カエル>ムカデ>ヘビ>」があったことなどから、日本への伝承時期は奈 良時代だったのではないかと見られている。 中国のカエル>ムカデ>ヘビ>カエルは勝敗関係を示していてインドネシアと同じであり、 日本のカエル>ヘビ>ナメクジ>カエルは敗勝関係になっているように思われるので、イ ンドネシアには中国から伝わったと考えるほうが順当ではないかという気がする。 ところがインドネシアのスイッは二人で行う対戦ゲームであり、三人以上が行う勝ち残り ゲームではまた異なるものが使われる。[ 続く ]