「葉巻(1)」(2025年12月11日) インドネシア語で葉巻はチュルトゥと呼ばれている。乾燥させたタバコ葉を巻いたものが 文字通りの葉巻であり、「フィラー(芯葉)」「バインダー(中巻葉)」「ラッパー(外 巻葉)」という3層構造になっている。 英語のcigarはスペイン語のcigarroに由来していると思われるが、インドネシア語では葉 巻のことをcerutuあるいはserutuと言う。他にもlisongという言葉が葉巻を意味して使わ れている。葉巻を意味するリソンは元々ブタウィ語だった。オランダ語も英語に似ていて、 sigaarと綴られてシハールと発音されるようだ。 インドネシア語のチュルトゥあるいはスルトゥはポルトガル語のcharutoが語源であり、 ポルトガル人はその綴りをシャルトォ、シャルトゥ、サルトゥなどのような音で発音して いる。ポルトガル人が教えた葉巻のことをインドネシア人がその音を真似て発音し、ずっ と後の時代になってアルファベット文字表記でcerutuと綴るようになった歴史の流れが推 測される。 中南米が原産であるタバコ葉の栽培がインドネシアで始まったのは1600年ごろのこと で、ポルトガル人がタバコ葉をフィリピンからヌサンタラに伝えたというのが定説になっ ている。フィリピンにはスペイン人がメキシコからタバコ葉をもたらしたのだろう。 タバコ葉はインドネシア語でトゥンバカウtembakauと言い、ポルトガル語のtabacoに由来 していることが明瞭に感じられる。オランダ語は語尾に[オ]音の出現しないtabakであり、 もしもオランダ人が教えたものであるなら語形が違ってくる可能性が高い。おまけに葉巻 のチュルトゥもポルトガル語に似ているのだから、タバコ葉伝来物語は定説を信頼してよ いように思われる。 いわゆる紙巻きタバコであるシガレットのインドネシア語はオランダ語のrokenに由来す るrokokだ。rokenとは英語smokeの動詞用法と同じ言葉であり、人間が鼻と口から煙を排 出する動作を捉えたものではあるまいか。これは現物が20世紀初期にインドネシアに出 現した品物なので、ポルトガル人のインドネシアに対する文化的影響力がもうなくなって いた時代だったのだから、ポルトガル語が影響を及ぼすことはありえなかった。 ただまあ、どうしてオランダ語の名詞sigaretにならなかったのかという疑問を抱く人も 出るだろう。実はsigaretもKBBIに採録されているのである。つまりKBBIはロコ ッとシガレッという二つの言葉をインドネシア語として並立させているのだ。にもかかわ らず、現代インドネシア人の常用語彙が名詞rokok、動詞merokokになっているということ なのである。 なぜそうなったのかは皆目見当もつかない。KBBIが英語のcigaretを外来語として摂 取しただけであってインドネシア人の意識にはあまり宿っておらず、昔ながらのロコッに 慣れ過ぎた状態が継続しているのか、植民地時代のオランダ人が名詞のシハレッよりも動 詞のローケンをより頻繁に日常会話で使ったためにインドネシア人がロコッにより強い印 象を抱いたのか。それともインドネシア人が名詞sigaretとその動詞形のmenyigaretとい う使い方に気分が乗らなかったのか、これはたいへんな難問だ。[ 続く ]