「葉巻(2)」(2025年12月12日)

地球が21世紀になって数年が経過したころ、ジャカルタでは西洋風ライフスタイルのポ
ップ化が社会ファッションとして流行しはじめた。そのひとつがワインラウンジのオープ
ンで、都内を埋めるあちこちのモールやクマン通りのようなファッションストリートに続
々と店開きし、真昼間から若者たちが軽く一杯ひっかけるスタイルが普及していった。

超モダンなレストランでもワインメニューが供されるようになり、ヤングミセスの4〜5
人が連れ立ってやってくると一瓶百数十万ルピアのワインを注文してみんなでシェアしな
がら一本飲み干すようなことが行われていた。

ムスリムの飲酒は破戒行為だと言って目くじらを立てる必要はない。イスラムヌサンタラ
はアルクルアンが説いている内容に沿って、人間を酔わせるために作られたアルコール飲
料だけをハラムであると定義している。酔って正気を失わせ自己統御能力が崩壊して生産
性が衰えたり、あるいは悪事を冒す原因となるアルコールだけが宗教禁忌の対象にされて
いるのだ。十把ひとからげで一切合切のアルコールを禁忌処分にしたアラブ諸国とは姿勢
が違っている。ワインは食欲を増進させるための飲み物だというヨーロッパ人の常識がそ
こに影を落としているにちがいあるまい。


もうひとつのポップ化は葉巻だった。それまでシガーラウンジはたいていの5星級ホテル
にあったものの、モールや商店街とは無縁の存在だった。ハイクラスエリートたちがエク
スクルーシブに自分のステータスを愉しむ場所がそこだったのだ。ジャカルタ初のシガー
ラウンジはLa Casa del Habanoで、1997年にマンダリンオリエンタルホテルにオープ
ンした。

それ以来、ホテルボロブドゥルやホテルシャングリラあるいはグランドハイヤッとなどあ
ちこちのホテルに続々とシガーラウンジが開店した。確かにジャカルタには相当な量の需
要があったのだろう。


だが現代のマスマーチャンダイジング精神はそんな辺境の地に葉巻ビジネスが安住するこ
とを許さなかった。いつしか、若者に人気のあるモールにもシガーラウンジがオープンす
るようになったのである。エリートのライフスタイルが中産階級に降りてきて、マーケッ
トが拡大され、ライフスタイルの民主化が浸透して高級品の亜流が陽の目を見る時代がや
ってきた。それがデモクラシーというものなのだろう。

若者たちはワインを飲むことをngewain(ただし書く時はngewineと綴る)と言い、葉巻を
吸うことをnyigarという言葉で表現した。nyigarが英語のcigarを動詞化した形であるこ
とは明らかだ。英語のcigarは発音がシガーであり、インドネシア語で綴るとsigarになる。
それに動詞化接頭辞のme-を付けるとmenyigarになるではないか。

今やKBBIは葉巻の意味でsigarという語彙を採録しているのである。このsigarという
言葉はジャワ語の動詞の中にも昔からあって、(me+)nyigarは二分割することを意味して
いる。とはいえ、インドネシアの葉巻愛好者の間で二ガルは今や確立された言葉になって
おり、趣味を同じくする者たちの間での隠語の趣を感じさせている。非喫煙者にとっては
所詮、縁のない言葉なのだから。[ 続く ]