「ジャワの大砲(16)」(2026年03月26日)

そのころには第二軍団右翼船隊とポルトガル軍船隊の砲撃戦が始まっていた。ポルトガル
船が放った大砲の弾丸が尾を引いて空中を飛ぶ様子がジャワ兵士たちの目に映った。船の
あちこちに置かれた大砲の斉射で同時に10発もの弾丸を飛ばすことができる。ポルトガ
ル軍船隊は速度を落とすことなく砲撃しながら突進してくる。砲弾によって右翼船隊に被
害が出始めたというのに、大量に発射されるチェッバンは敵船にまで届かず戦果が上がら
ない。届いたものがあっても、その勢いは衰えており、破壊力が減衰していた。

ポルトガル船隊の一隻で帆が炎上し、船隊から脱落した様子が見えた。だがその船の砲撃
能力には何の影響も起こらない。右翼船隊の一隻は帆柱に砲弾が当たり、帆柱が倒れて舷
側に大穴が開いた。そうしてその船はゆっくりと沈没し始めた。他の船は櫂漕ぎで砲弾を
避けながら本体に合流しようとしている。だがポルトガルの砲弾は風よりも速かった。船
体のそこかしこに砲弾を受けて構造が破壊されたジャワの軍船はひとつまたひとつとマラ
カ海峡の底に沈んで行く。

その様子をじっくりと観察したウヌス提督はチェッバン砲隊にアイデアを授けた。飛んで
くる敵の砲弾の前にチェッバンを斉射して撃ち落としてみろ。


ジャワの右翼船隊を壊滅させたポルトガル軍船隊は続いて空っぽになっている第一軍団と
アチェの軍船に砲撃を始めた。それをかばおうとして第二軍団が前進し、ポルトガル軍船
隊に砲撃を行う。少数の大砲が第二軍団の砲撃をあしらっている間、ポルトガル軍船隊に
装備されている大砲の多くが空っぽの船を沈めるために使われた。陸上から兵士を乗せて
船に戻ろうとしていた小船は砲弾の標的になるのを怖れて逃げ散った。反撃も逃走もしな
い船を沈めるのにたいした時間はかからない。こうしてマラカ沖は大量の船のゴミ捨て場
と化したのである。

その作業を終えたポルトガル軍船隊の4隻は最後の獲物を求めてウヌスの第二軍団に襲い
かかって来た。砲撃戦が激しさを増した。チェッバン砲隊は提督のアイデアを実践してみ
た。ポルトガルの砲弾が描く弾道線の前にチェッバンの斉射をかけてみたものの、何の効
果も得られなかった。砲弾は約束された弾道を描いてジャワの軍船に穴をあけ、火災を起
こした。

反対にジャワ軍船側のチェッバンで自爆事故が多発した。兵士の間に「ブランバガンのや
つらめ!」という罵詈が聞こえたが、そんなことに関わってはいられなかった。第二軍団
本隊に大きな被害が出ているのだ。ポルトガル船の舷側で閃光と煙が上がり、その砲撃音
が船上の人間に聞こえると、ほんのわずかの間に焼けた金属弾が船のどこかを破壊するの
である。どんなに硬く分厚い木材で保護されていても、金属弾はそれをうち破った。

ウヌス提督は、旗艦の甲板で休みなく発砲しているふたりのチェッバン砲手の後ろに立っ
て戦況を見ていた。こんなことなら、昨日上陸しておくべきだったという後悔が脳裏をか
すめた。海上の砲撃戦ではポルトガルの強さにまったく歯が立たない。最強の兵器と信じ
られていたチェッバンに勝る西洋人の大砲は今後行われるであろう世界の覇権争奪のあり
方を十分に予測させるものだ。

「提督の指示を待っております。」という幕僚将校の声にウヌスの思索が破られた。旗艦
の左右にいた船が破壊されて沈没しつつある光景が目に入った。ウヌスは叫んだ。「全軍、
マラカ海峡から撤退せよ!」

残っていた全船が櫂漕ぎを開始した。軍船団は急旋回して戦場から離脱をはかる。[ 続く ]