「独立宣言前夜(26)」(2016年09月21日)

ジャカルタ大団本部のラティフ・ヘンドラニンラ中団長はジャカルタ蜂起の中核となるP
ETA側の鍵を握っている。ハエルル・サレは襲撃の中でPETAが兵補と共同戦線を張
るよう提言した。戦力は大きければ大きいほど効果が高い。

夕方、ラティフ中団長はシンギ小団長に兵補部隊との連絡を命じた。17日午前1時が迫
っている。出かけて行った小団長はすぐに戻って来た。兵補部隊は前線に出動したあとだ
った、と報告する。

PETAだけで行動を起こそうと腹を括ったラティフ中団長を、バリサンプロポル隊長の
Dr.ムワルディが訪ねて来た。ムワルディは数時間後の蜂起計画について確認しに来た
のだ。ムワルディは言う。
「その計画は無謀拙速であり、熟慮が加えられていない。ジャカルタの日本軍部隊とジャ
カルタのPETAの戦力比較をしてみればいい。人数の上からも、戦闘経験からも、そし
て兵器も、格段に違っている。PETAは軽装備であり、日本軍ははるかに重装備だ。そ
んなことをすれば、あたら有為な青年たちを無駄死にさせることになる。もしラティフ君
がどうしてもそうしたいのなら、わたしは止めない。どうぞ行ってくれ。しかしバリサン
プロポルはそれに参加しない。」

ラティフ中団長は予想していなかった言葉を聞かされて愕然とし、黙ってムワルディの言
葉を反すうした。兵補が参加せず、バリサンプロポルまでもが背を向けた。PETAだけ
が行動を起こすことになれば、確かにムワルディの言う通りかもしれない。かれは決心し
た。PETAは日本軍兵営に対する襲撃作戦を中止する。


かれはメンテンラヤ通り31番地に司令部を据えたハエルル・サレに手紙を書き、部下に
届けさせた。その手紙を読んだハエルル・サレは飛び上がった。
『ブンカルノからの指令がまだないため、PETAは協働できない。』
ハエルル・サレはその文面をにらみつけて怒り狂った。
「これはただの言い逃れじゃないか。PETAがスカルノとハッタをレンガスデンクロッ
クに連れて行ったのをラティフ中団長は忘れたのか?PETAがブンカルノの指令をまっ
ているなんて、よく言えたものだ!」
ハエルル・サレはすぐにアンパシエル通りに向った。「カスマン、ラティフ、お前たちは
どこにいる。殺してやるぞ!」と怒鳴りながら。

カスマン大団長はラティフ中団長に大団本部指揮官代行を命じて16日朝6時にバンドン
に向って出発していたから、本部にはいない。ラティフ中団長も、ハエルル・サレに手紙
を送ったあと、姿を消した。残されたPETAの士官と兵たちは当惑した。深夜の出動が
計画され、その準備は万端ととのえたというのに、指揮官の姿が見当たらない。出動時間
になっても指揮官が戻らなければ、出動はお流れにせざるを得ない。

怒り狂ってやってきたハエルル・サレは、当惑しているPETAの士官や兵たちを目の当
たりにして、腰砕けになった。深夜ジャカルタで蜂起を開始し、時をあわせて独立宣言を
ラジオのマイクで全国に流すという計画が、音を立てて崩れていく。独立宣言文を用意し、
ラジオの手配までしてあったというのに、すべてが水に流れてしまった。

そこへウィカナがやってきて、スロト・クントとスバルジョがスカルノとハッタを迎えに
レンガスデンクロックに16時ごろ向かったという情報を伝えた。[ 続く ]


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