「独立宣言前夜(28)」(2016年09月23日)

インドネシア共和国最初の解放区となったレンガスデンクロックでは、スカルノ一行がP
ETA兵営から民家に移された。華人ジョウ・キーシオンの自宅をスカルノ一行のために
空けてもらったのだ。ジョウ・キーシオンはどうぞわが家を使って下さいとPETAに快
諾したそうだ。


8月16日の正午を過ぎたころ、スカルノはスカルニを呼んだ。スカルニは威嚇的な声で
言う。「ブン、何ですか?」
「君たちが今日12時から始めると言っていた革命は、動き出したのかね?学生やPET
Aと一緒にジャカルタを襲撃する1万5千人の民衆はもうジャカルタに入ったかね?」
「連絡はまだ何も来ていない。」
「じゃあ、今直ぐジャカルタに電話してみたらどうかね?」
スカルニは出て行った。そして一時間ほどして戻って来た。
「だれにも連絡がつかない。ジャカルタからも、何一つニュースが来ない。」
「だったら、君たちの革命は失敗したのだ。ならばわれわれは何のためにここにいるのか?
ジャカルタで何も事が起こっていないのなら、われわれがこの村に隠れている意味はもう
ないじゃないか。」
スカルニは黙ったまま、肩を落として出て行った。


太陽が沈もうとするころ、アフマッ・スバルジョの車がPETAレンガスデンクロック中
団本部に着いた。ユスフ・クントとスディロを従えて中に入ったスバルジョにスカルニや
スベノ小団長らが対面した。

「スバルジョ君はここへ何をしに来たのかね?」スベノ小団長が苦い声で言う。
「ブンカルノとブンハッタを迎えに来たのだ。」
「海軍としてここへ来たのか?」
「違う。わたしが来たのはウィカナ君の同意による。ジャカルタの同志たちはブンカルノ
とブンハッタがジャカルタへ戻ることに同意した。ふたりの安全が確保され、独立宣言が
間違いなく実行されることを条件にして。」
「スバルジョ君は今夜にも独立宣言が行われることを保証できるのか?」
「それは無理だ。今はもう18時を過ぎた。われわれは早急にジャカルタに戻り、PPK
Iの緊急会議を招集しなければならない。それから独立宣言の準備にかかる。今夜は徹夜
になるだろう。」
「ならば、明朝6時に独立宣言だ。」
「そのように時間を切るのはむつかしいが、遅くとも昼前にはできるだろう。
われわれは急いでいる。今すぐにも出発したい。スカルノとハッタに間違いなく独立宣言
を行わせるために。」
「もしできなかったら・・・?」
「ブン、君はわたしを撃てばいい。」

独立宣言がスカルノとハッタをジャカルタへ連れ帰る条件になった。独立宣言が8月17
日に行われることが、そこで確定したとも言える。[ 続く ]


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