「独立宣言前夜(30)」(2016年09月27日) こうして談話が続けられているとき、三好大佐がスカルノとハッタを迎えに来た。軍政監 部総務部長西村少将邸にお連れする、と言う。スカルノとハッタはこの軍政監部要人との 議論の機会を通して、インドネシア民族独立の念願を達成させるための説得に全力をあげ たが、成功しなかった。 そのときの会見の速記録がオランダ語に翻訳されてオランダ国立戦時資料研究所に保管さ れている。そのインドネシア語訳を再度日本語に戻すとこうなる。 スカルノ:戦争がもたらした突然の危機的状況において、インドネシア人民、特に志願兵 や青年たちは度量を失っている。今かれらは形式上の手続きや決まりを無視して、即時独 立を要求している。状況はますます危険な方向へと変化している。だから、かれらの要求 が満たされないとき、われわれの双方が望んでいない事件が発生する懸念が強い。それゆ え、PPKI会議を今夜のうちに開催したい。 西村:それはありえないし、納得できない。PPKIの日程を一方的に変えることはでき ない。あなたがたはまず東京から了承をとり付けなければならない。 スカルノ:もしそうなっているのであれば、明朝8月17日に独立を宣言することをわた しは提案する。そのあとPPKIがテクニカルな必要事項をわれわれが合意した日程にし たがって完結させていく。わたしは、現場で起こっている変化に対応していかなければな らないと考えている。形式や手続きにいつも縛られていてはならない。わたしの考えにト アンは賛成してくれますか? 西村:できない。PPKIが決定を東京に連絡し、向こうから公式決定が降りて来たあと ではじめて、本当の独立が達成されるのだから。あなたがたが先に独立を宣言し、そのあ とで報告を出すようなことは、納得できるものではない。 スカルノ:形式や手続きを優先することは、もちろん間違っているとは言わないが、そう なればいきり立っている人民、特に青年層を鎮める手段がなくなる。既に約束を与えたと いうのに、今になって日程を持ち出してくる。トアンの日程は短縮されなければならない。 そうすることでしか、かれらの欲求を統御することはできない。 西村:それがトアンの責務ではないのか?気持ちを燃え立たせている青年たちや、多分怒 りに駆られている大衆が、理の通った説明を受け入れるようにかれらを悟らせ、育成し、 指導するという責務が指導者にはあるのだ。わたしは何が起こるかを予想するようなこと をしない。大日本軍人であるわたしの責務は常に明らかだ。わたしが行うことはすべて、 秩序の維持のためだ。わたしには、もう選択の余地はない。仕方ないことながら、武器を 使わなければならないのであるならそれなりに、あらゆる謀反行動をわたしは潰していく ことになる。 ハッタ:トアンは本当にそうするのか?われわれが今解決しなければならない重要問題は 理屈ではないのだ。人間の意欲・感情・大衆心理をわれわれは処理しなければならない。 青年層はいま、植民地主義から祖国を解放するという気概に燃えて生命を賭す心境になっ ている。それが尊敬されるべき大業であるのは明白だ。このような実態が理屈だけで処置 できるわけがない。そんな青年たちが行動に移ったら、だれが責任を負えるのですか? [ 続く ] 「独立宣言前夜」の全編は
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