「独立宣言前夜(44)」(2016年10月19日)

三人がハッタ宅を訪れると、ハッタはスバルジョ宅にいることが分かったので、スバルジ
ョ宅に向かう。ハッタとスバルジョを並べて三人は総督宮殿奪取計画を説明した。ラティ
フ中団長は地図を出して作戦計画を説明する。ところが、ハッタがその計画を拒否した。
「そんな計画が実行できると思っているのか?君たちは気が狂ったのか?」

3人はがっかりして、すごすごと退散した。スディロは心の中で反省した。「革命はなさ
れなければならない。お年寄りたちに許可をもらおうとしたわれわれが愚かだった。その
時がくれば、もう許可を取りつけるようなことは絶対にしないぞ。」


ジャカルタで蜂起の火が燃え上がるのを夢見た青年たちは、確かに少なくなかった。パン
ドゥ・カルタウィグナもそのひとりだ。かれは護身のために先祖代々のクリスを身に着け
て離さない。

パンドゥはマルトと連れ立って、パサルスネンの裏にあるカンプンクレプに行った。クス
ナエニやジョハル・ヌルなど数人の同志が集まっている。そこでハエルル・サレとスカル
ニの姿が見えないことが話題になった。情報を集めると、日本人に捕まったようだという
結論になった。かれらはすぐに救出に向かった。


救出隊はジョハル・ヌル、シャリフ・タイェブ、アリザル・タイブ、クスナンダル、スロ
ト・クント、リントン・シトルス。ジョハル・ヌルは盗んだピストルをポケットにしのば
せている。かれらが情報を探ると、ハエルル・サレとスカルニはクブンシリ通りの憲兵隊
支所に捕らえられていることが明らかになった。救出隊は堂々と建物内に乗り込んで行っ
た。

日本人との交渉が始まる。かれらは威嚇した。ふたりを解放せよ。さもなくば、われわれ
インドネシア共和国の青年はジャカルタにいるすべての日本人を処刑する。
スカルニが鉄格子の中から叫んだ。「インドネシアは独立したのだから、われわれはもう
生命を惜しまない。インドネシアの国土は日本人の血で豊饒さを増すのだ!」
ハエルル・サレとスカルニは放免された。


全員は再びプラパタン通り10番地の寮に集まった。不完全燃焼のむなしさが全員の頭上
に重くのしかかっている。前田少将邸での独立宣言文起草のとき、かれらの希望は十分に
反映されなかった。インドネシアの青年層の姿を世の中に誇示するために、われわれは何
をなすべきか?そのためには革命行動を起こすのだ。独立は宣言したというのに、インド
ネシアの人民がいまだにこの国土の主人になっておらず、異民族の支配下に置かれている。
その姿を正さなければ実質的な独立は達成されない。そのためにこそ、青年層は闘争に向
かうのだ。

われわれはスカルノとハッタを日本人からの権力奪取の指揮官に据え、名実共に独立を実
現させるのだ。この青年層の熱意を説くために、ふたりをここへ呼ぼう。
同時に、われわれは8月19日(日)に大衆をガンビル広場に集めて大パレードを行おう。
独立宣言という言葉だけでなく、独立の中味を作り上げていくことは絶対に欠かせないこ
とである。[ 続く ]


「独立宣言前夜」の全編は
⇒   こちら
でご覧いただけます。