「マゼラン世界周航五百年(終)」(2018年11月07日) 文明の溶け合いをスパイス・商業・軍船・異民族の侵略・戦争・覇権争奪といった要素の 中に探しても、たいしたものは見つからない。スパイスの交易センターはとりもなおさず 商業の中心地なのであり、周辺の異民族は元より、はるか遠くの諸民族までがそこへ引き 寄せられてきた。そうして異民族間の混血と文化の融合が起こったのである。 ポルトガル人やスペイン人が七つの海に雄飛したとき、かれらは出先の国で地元の女に子 供を産ませた。その子孫がメスティーソと呼ばれている。これはスペインとポルトガルの 間で綴りは異なっても類似の発音がなされる同じ単語だ。 その言葉自体に特定の種族民族を指す含蓄はなく、混血の人間や動物に対してジェネラル に用いられる言葉らしい。だから、ポルトガル人がマラッカでムラユ人に産ませた子供も、 アメリカ大陸と同じようにメスティーソと呼ばれることになる。 テルナーテやティドーレの原住民がメディテラニアンコーカソイドの遺伝子を持っている ことはエイクマン分子生物学研究所が既に発見して報告している。セハウンが、かれのポ ルトガル人部下たちが、マゼラン船隊のヨーロッパ人たちが、香料諸島の原住民に遺伝子 を植え付けた可能性は大いに考えられることなのだ。 文明の接点では遺伝子混入が生じるのである。もちろん遺伝子が混入されたところで、そ れだけでは何も変わらないことを過去の歴史が証明している。変えるためには人間の養育 教育を変えて行かなければならない。 人類がいま進んでいるのは統一文明への道であると考えられている。文明の接点を増やす ことは、そのゴールに至る効果的な布石のひとつではないだろうか。土地に縛り付けられ ている閉ざされた文明文化の枠を融和的に広げて行くための駆動力をそれはきっと提供し てくれることだろう。[ 完 ]