「一国家、一民族、二言語(9)」(2019年02月26日)

5.roti
この語はオランダ語のパン、broodに由来している。かつてバタヴィアでは、パンを置い
た荷車に自転車を取り付け、販売者はそれを漕いで街中を巡った。販売者は売り物の呼び
声を張り上げる。そして呼び声がよく通るように、「iii」の音を語尾に付けた。brootiii・
・・。無意味な「イー」が新語の一部分になった。

6.Minggu
古いポルトガル語でDomingoは神を意味する。かれらは日曜日に神を讃えるために教会へ
行った。その日はMingguと呼ばれるようになった。

7.Kodak
カメラとフィルムはその昔、インドネシアにただひとつのブランドしかなかった。そのた
めに、写真撮影活動さえ「kodakする」と表現された。フォトグラファーはMat Kodakと
呼ばれた。

8.gedung
このジャワ語はディポヌゴロ戦争でオランダ植民地軍に駆り出された東部インドネシア出
身者たちの感謝と喜びの言葉に由来している。何日間も食糧なしに移動を続けていた一個
小隊がバナナ畑を発見し、かれらは嬉しさ余ってオランダ語で神を讃えた。「God dank」。

9.odading
このスンダ語はオランダ人奥様が思いがけなく口にした感嘆詞に由来している。あるとき、
カンプンの子供が売り歩いているお菓子を欲しがって,その家の子供が駄々をこねた。奥
様は子供をなだめようとして、売り子を呼んだ。カンプンの家庭が作る、小麦粉と砂糖を
練って油で揚げただけのありきたりの菓子だから、菓子の名前などない。
奥様にも好奇心があってのことだ。やってきた売り子に奥様は、籠の上に置かれた菓子を
覆っているバナナの葉をめくるように言った。現物を見た奥様の口から驚きの声が響いた。
「オー、ダッディン.」。オランダ語「O, dat ding?」は「あら、こんなものなの?」。

10.Holopis kuntul baris
この言葉はブンカルノがある演説の中で掘り起こしたもので、後に歌まで作られた。力仕
事のゴトンロヨンのシンボルにされたこの言葉は、ダンデルス時代の過酷な労役で力が湧
くように唱えるまじない文句だったのだ。労役には鞭を持った監督が付く。監督の中に強
力無比な男がいた。スペイン人でパリに住み着き、ナポレオンの腹心だったダンデルスが
東インドに送り込んだ者たちに加わった。その名をDon Lopes comte du Parisと称した。
ジャワ人たちはその男にあやかってかれのように強い力が出せるようにと、その名前を呪
文として唱えた。[ 続く ]