「オム(前)」(2019年04月10日)

ファンデプッテ博士(Dr. Vandeputte)が1987年に著わしたオランダ語なる書物の57
ページに、インドネシア語の中に残されたオランダ語は5千語を下らないと記されている。
日本にすらオランダ語はたくさん取り込まれた。ビール、ブリキ、ゴム、インキ、コルク、
メス、スポイト、タラップなどはみなそうだ。文学者ナタナエル・ダルジュニ氏は論説の
中でそう書いた。

ヨーロッパの情報知識を吸収するときに、蘭学が一時代を画したのは歴史の語るところで
ある。現代人がオランダ人の昔取った杵柄を忘却してしまい、あらゆるものごとを英語に
結び付けようとする姿勢は「英語の「ション」がインドネシア語の「シ」? 〜 外来語
とは何か?」という論説に見られる通りだ。
この論説はhttp://indojoho.ciao.jp/koreg/dbasa.htmlでご覧ください。


オランダ人がインドネシアに来ると、至る所でインドネシア人がオランダ語の単語を使っ
ていて、フムフムとうなずきながら微笑むことになる。
koran, rekening, kwitansi, porsekot, los, atret, pas, twedehan, perlop。 病院へ
行けばpasien, suster, operasi, sal, injeksi, bludrek, behandel. テレビをつければ
daah, papa, mama, om, tante. 母語であるはずのbibiは女中を呼ぶときに使われるばか
り。猫はpoesで犬はまだらでもないのにpleki。オランダ語のvlekkieは斑点を意味してい
るというのに。さもなければ真白な犬にbroniと名付ける。

papa (papi), mama (mami), om, tante 現象にはオランダ人も驚く。社会的地位もあって
名遂げたジャワのプリヤイさえもが、rama, ibu や bapak, simbok の代わりにパパ・マ
マを使っている。昔、華人はpapah, mamahを使っていた。その辺りの雑多な現象が混然
と溶け合い、新語が新鮮なニュアンスを伴って社会化していく。親が外国留学してきた家
庭では、更に進んでdaddy, mommyが使われている。

pamanやpaklikに代わってオランダ語由来のomが使われるようになったのには歴史の流
れがある、とナタナエル氏は物語る。オランダ植民地時代にプリブミがオランダ語の
Oomを同じプリブミに使うことは、その相手がオランダ語を使う教養の持ち主だった場
合に限られていたそうだ。pamanにはom、bulikにはtanteが使われた。オランダ人の習
慣通り、pakde, budeには使われなかった。[ 続く ]