「死を呼ぶブルーファイヤー」(2019年04月29日)

世界に二カ所しかないと言われているブルーファイヤーを見るために訪れる観光客でジャ
ワ島東端のバニュワギ県イジェン山火口は賑わっている。そのブルーファイヤーが死を呼
んだ。

ブルーファイヤーが最も華麗に見えるのは深夜2時から4時の間と言われている。おまけ
に、登山口のパルトゥディンから火口までの3キロほどを徒歩で登らなければならず、海
抜2千4百メートルの高度を、硫黄ガスが徐々に濃度を増しながら続く道を進まなければ
ならない。

ブルーファイヤーは火山が吐き出す硫黄が生み出しているものだ。その豊富な硫黄を採取
するために、大勢の人間が火口から硫黄を運び下す作業に従事している。だいたい一人当
たり80キロほどの硫黄を竹かごに入れて担ぎ下ろし、即金で20万ルピア超を手に入れ
ている。だが世界でもっとも過酷な作業と言われているこの硫黄担ぎ人足の仕事で、硫黄
ガスや転落事故などのために過去40年間に70人が死亡しているそうだ。

過酷な力仕事は一日一回にし、夜中ではあるがはるかに楽な観光客のガイドや、歩き疲れ
たり息苦しくなった観光客のための荷車タクシーをやってもうひと稼ぎしようという担ぎ
人足も増えている。中には金を溜めて家を建て、民宿ビジネスに転向したひともあるらし
い。


2019年4月20日午前5時、火口で転落事故が起こった。火口リムから火口湖側に下
りた観光客がブルーファイヤーを背にしている姿を撮影するために、ガイドのブロントさ
ん38歳がリムの崖を少し登った。そして写真を撮っているとき、不意に濃い硫黄ガスが
下から吹き上がって来たのである。

ブロントさんは慌てた。逃れようとしたのだろうが、逃げる場所はなかった。かれは崖か
ら転落したのである。落ちた場所は太い鉄パイプの上だった。

イジェン火口では昔から、硫黄採取にガス凝華反応を利用してきた。火口から湧き出す濃
縮ガスをパイプに導き、パイプの中で長い距離を移動させることによってガスは冷やされ、
パイプの終点で凝華する。そのパイプが並の熱さでないことは想像できるにちがいあるま
い。

硫黄担ぎ人足ふたりがブロントさんの身体をリムの上まで引き上げると、パルトゥディン
登山口事務所まで運んで急を告げた。すぐにそこから一番近いリチン保健所に搬送された
ものの、胸・腹・両脚に激しいやけどを蒙ったブロントさんの生命は助からなかった。

硫黄担ぎ人足でなく観光客が亡くなる事故も毎年起こっている。2018年12月にはス
カブミからの観光客が火口を目指す途中で命を落としているし、2017年11月には喘
息の持病を持つジュンブルからの観光客が、2016年11月にはバリからの観光客が死
亡した。

東ジャワ州天然資源保存総館長は今回の事件について、イジェン火口湖の下まで降りてよ
いのは硫黄担ぎ人足だけであり、観光客もガイドもリムを下ってはならないことになって
いる、との規則をリマインドした。
「リムの崖はとても急であり、おまけに硫黄ガスの危険が常にあるのだから、安全のため
に下りてはならないことになっていて、その表示も置かれている。ところがガイドも観光
客もブルーファイヤーを近くで見ようとし、危険を冒して降りる者が後を絶たない。リム
から火口に降りてはならないという警告表示はパルトゥディン登山口と登山道終点のリム
に置かれているが、それを無視する者に警告するための保安監視員は置かれていない。
それどころか、リム付近にはガスマスクのレンタル商売を行っている者がいて、火口に降
りようとする観光客があると「マスクなしはダメだ。」と禁止し、マスクを借りたり、あ
るいは持参してきた観光客を「どうぞ、どうぞ」と火口に向かわせている始末だ。」

総館長は今回の事故に鑑みて、規則を守らせるための態勢の強化に努めなければならない
との自戒を表明した。