「総選挙とセールスシーズン」(2019年04月30日)

国政選挙投票率の向上はこうして行うのだというお手本がインドネシアで示された。首都
圏では2019年4月17日の総選挙投票日に多数の住民が購買中心スポットに繰り出し
て、買物にいそしんだ。買い物客はレジで指に塗られた投票実行済みを証明する不滅イン
クを示して、支払金額の割引をもらっていたのである。

投票すればそのような実質的な見返りがあるとなれば、たとえ白紙投票したっていいから
投票所へ出かける方が得だ。ところがいざ投票所へ出かけて投票ブースに入り、フルカラ
ーの投票用紙と五寸釘を手にしたら、グサッとやりたくなるに決まっている。

人間の心理とは実におかしなものであり、それを巧みに操る者たち(この場合は決して川
上から川下までの関係者が集まって協議や合議、もっとひどい言葉を使えば謀議、を行っ
たわけでは決してない。それぞれが自分のポジションで自分に利益をもたらすことは何か
を考え、流れと環境を考慮に入れて方針を決め、実行する。それが社会という大きな機構
の中でのひとつの流れを生み出し、事の善悪とは無関係に個人の枠を超えた社会的な現象
として発現する。インドネシア社会が持っているこの特徴は主に、犯罪面での現象として
よく出現するのだが、ここでの話題である国政選挙投票では全くの善行という形になっ
た。)がいかに巧妙に効果的な最終結果に物事を向けて行くかという、人間心理の奥義を
つかんでいる姿をインドネシアで目にすることは稀でない。

実業界大御所のひとりであるソフィアン・ワナンディ氏によれば、1971年の総選挙の
ころから、投票したひとに割引特典を与える事業者はいたそうだ。社会的意義と自社の売
上増は実業家として意味のあることがらなのである。

こうして小売業界の中に、選挙投票日の割引販売という商慣習が業界の一部分で続けられ
てきた。そして今回の投票日はその慣習が爆発的に広がったのである。飲食品・衣料品・
映画館・家電品・装身具・書店・美容サービスその他のさまざまなブランドが250を超
えて割引を提供した。割引率は半額が多かったようだ。

デパートやモールがそれを行ったところもあり、テナントの売上は大幅に伸びた。実品小
売のみならずオンラインショップまでもが参加したそうだ。

モールなどで小売テナントに販売スペースを提供しているショッピングセンター賃貸者会
は、19年4月17日の大セールで小売店は平均して通常の休日売上高の三倍に達したよ
うだと公表した。中には売り上げが十倍に上った店もあったとのこと。商業省は全国で6
千万人の消費者がこの大セールの機会を逃さずに利用したと見ており、一人当たり最低5
万ルピアを使ったとしても3兆ルピアを超えるビジネスを小売業界はエンジョイしたもの
と推測している。

もちろん2019年総選挙で大セールが巻き起こった裏側には仕掛人がいる。通信情報省
・クリエーティブ経済庁・観光省・ラジオ局が協賛してKlingKing Fun(小指の愉しみ)
というプログラムを企画し、参加を実業界に呼びかけたことがあの結果を実現させる一助
となったのは疑いあるまい。なにしろ実業者個人の方針から、公的バックアップへとステ
ータスが上昇したのだから。

実業界はこれからやってくるラマダン〜イドゥルフィトリという年間最大のセールスシー
ズンに向けて販売態勢を調整して行くことになるのだが、4月17日の大イベントが大成
功を示したことを業界は近付くルバラン販売期の先行きを占う参考指標と見て、期待感を
膨らませているようだ。