「選挙投票運営者の死(前)」(2019年05月20日) ライター: 社会保健問題オブザーバー、元インドネシア大学教授、ハスブラ・タブラニ ソース: 2019年5月17日付けコンパス紙 "Bias Kematian" 今回の総選挙はインドネシアがベネズエラの後を追うのではないかという不安を残した。 それどころか、この国が先進国になるのを望まない集団が存在していることから、そのリ スクはもっと巨大なものになるかもしれない。ミドルインカムトラップをほぼ乗り越えよ うとしているインドネシアのポジションはさまざまなSARAイシューと不信の肥沃な土 壌を提供している。 そのために、投票運営チームのメンバーにたくさんの死者が出たニュースが広まると、死 亡イシューが「不正」議論を支えるべく毒を塗られ、食いつきやすいものにされてソスメ ドの中で大盤振る舞いされる。 教育レベルが低く、所得レベルにまだ余裕がなくて、「SARAと不正のイシュー」を食 い漁っていた国民の多くはそれに飛びつき、火だねに油が注がれるかのごとくこのイシュ ーを広めまわる。インテリ層の一部がその火を一緒になって煽いでいるのは、奇妙としか 言いようがない。 マスメディアに流れている種々の報道記事を参照すると、投票運営チームメンバーの死亡 者は総選挙投票プロセス中の23日間に469人出たようだ。一日平均で20人に上る。 多いだろうか?比較問題だ。WHOが示している喫煙者の一日当たり死亡者数は618人 であるということを大勢が見過ごしている。そんな状況に関して政府を批判しようともせ ず、ましてや喫煙リスクが引き起こす死亡についての実態調査を政府に要求しようともし ない。 おまけに政府高官や社会著名人あるいは宗教界有力者のほとんどが、喫煙による死亡者数 を気にかけている姿勢すら示さない。それが数字のバイアスだ。往々にしてアンバランス な内容の集中的報道は、その種のバイアスに満ちた死亡ホウクスの流通を容易にする。 < 数字バイアス > 2019年総選挙の投票所は810,329カ所用意された。一カ所平均5人が各投票所 を運営したとして、全国の投票運営チームメンバーは人数が4,051,645人になる。 そのうちの469人が死亡したのだ。それを年間換算するなら、(365/23)X46 9=7,443となる。投票運営チームのメンバーになることが妊娠や出産のように死亡 要因のひとつであると見なすなら、総選挙の責務を達成させるための担当員死亡率は(7, 443/4,051,645)X1,000=1.8、つまり1千人当たり1.8人とな るのである。 その死亡率を新生児出産時の母体死亡率と比較してみよう。2015年の実数は10万人 当たり305件で、1千人の母親が新生児を誕生させた時に三人の母親が死亡しているこ とをそれは意味している。出産における母体死亡のリスクは、明らかに投票運営チームメ ンバーが担うものより大きい。ところが死者の司法解剖や死亡原因実態調査を政府に要求 する声は聞こえて来ない。 不明朗な選挙プロセスに対する不正と不信に満ちた先入観に導かれて、投票運営チームメ ンバーの死亡者数に対するバイアスのかかった見方が生じているのだ。 死亡者数の多さに関する報道の罠に落ちて、何かおかしな問題がからんでいると非難めい た反応を示した学術者がたくさんいたのは残念なことだ。疲労しただけで人間は死ぬだろ うか?平常人の平均を超える労働時間を続けることによって、かつて罹患した種々の病気 が死亡リスクを高めることになる。[ 続く ]