「ダゴの滝とシアム王の石碑(終)」(2019年06月07日) バタヴィアからボゴール〜チアンジュルを経てバンドンに至る鉄道が1884年に建設さ れると、プリアガン地方に文化の華が開いた。バンドンを中心にする西ジャワ一帯の茶農 園は1930〜42年に世界的な茶葉の供給地となり、砂糖農園経営者たちは業界者の第 一回目の集いの開催地をわざわざバンドンにした。そして集いの閉会アトラクションにパ リの有名歌手を招いて唄わせたのである。 観光産業振興にも力が入り、1893年にシカゴで行われたコロニアルエキスポで蘭領東 インドは観光客誘致に努めた。サイレント映画スターのチャーリー・チャップリンは19 27年と1932年に長期のインドネシア観光旅行を行い、ジャワ島からバリ島までを旅 している。バンドンが華の街・華の都と喧伝されたのはその時代であり、高原の花の咲き 誇る町という意味に変化したのは、独立してから後の時代のことだ。 その時代のそんな状況の中で、ダゴの滝はバンドンの華のひとつになっていた。12万5 千年前から4万8千年前までの時期にタンクバンプラフ火山が生んだ山岳地帯の中に設け られたジュアンダ大森林園の行楽目的地の目玉のひとつとして、海抜8百メートルの高さ にあるダゴの滝は昔から庶民の憩いの場になっていたのである。 憩いの場を猥雑な大衆観光地として荒廃させてはならない。地元民は月曜と木曜を滝の静 養の日と定めて、その両日は滝つぼでマンディすることはもちろん、滝に近寄ることも行 わないようにしてきた。他の日でも、滝でのマンディはひっそりと行わなければならず、 決して騒々しくならないようにしなければならない。 ところがいまや、そんな人間の振舞いに対する統制などまったく不要な時代になってしま った。生活排水・家畜動物排泄物・ゴミなどの廃棄物がもたらす水の汚染は年々激しさを 増し、2007年に西ジャワ州生活環境統制庁がチカプンドゥン川流域30カ所で採取し た水の検査を行ったとき、75%のサンプルで顕著な大腸菌汚染が見られた。 今では滝つぼに入ろうとする人間はまずいない。滝つぼに近付いただけで鼻をつまむ観光 客がいるそうだ。昔はしきたりを用いて人間の振舞いを抑制していたものが、いまや環境 汚染が人間の行動を抑制してくれている。 滝つぼの近くに設けられた小ぎれいなバレ(小屋)と二つの石碑の維持費用はタイ王国が 今でも負担している。親子二代のシアム国王が慈しんだダゴの滝は、復活の日が訪れるの を待っているにちがいない。[ 完 ]