「ゴアジュパン」(2019年06月24日)

第二次大戦中に日本軍は駐屯基地を置いたたいていの場所に洞窟を掘って防衛対策とした。
インドネシアの至るところに設けられた日本軍洞窟陣地跡はインドネシア語でグア(gua)も
しくはゴア(goa)ジュパン(Jepang)と呼ばれている。
そのひとつを見学したとき、日本人であるわたしは「グア ジュパン、ルー ブタウィ」
と下らない駄洒落を口にしたが、たいして受けなかった。

東ジャワ州モジョクルト生まれの作家ダダン・アリ・ムルトノ氏は将来を嘱望されている
新進文学者だ。かれが18年2月にコンパス紙に発表した詩のひとつに、グアジュパンと
題するものがある。

グアジュパン
倭人の呪文に包まれて
そこでは時が湖になる
水は波打ち、飛沫を立てるが
しかし流れ去ることはない

だからそこの暗流に
71人の痩せた男たちが
もっと深くもっと長く穴を掘る
墓穴など掘らないのに、一閃
まるでホログラム画像のように
11人の兵士がロームシャたちの
首を落とした:宙に漂う声
この場所を誰にも知られてはならないのだ
1トンの黄金は天皇陛下のものである
ただ陛下だけのものなのだ

生まれ変わり続ける呪文が
空間を押し流し、小川となって
流れて行く

だからそうなのだ
ある場所で時にそれが見られても
すぐに消え去る。常に探知の目を逃れ
地図上の固着を拒んで常に抜け落ちる

それがゆえに遺族たちは常に
記憶の中にしか墓参
することができない

ただ灰色をした記憶だけ


ロームシャとは日本語の労務者で、インドネシア語では日本軍に駆り出された強制労働者
と定義付けられている。