「注文花嫁(1)」(2019年07月29日) 西カリマンタン州シンカワンSingkawangは華人の町だ。中華系住民人口は6割にのぼる。 もちろんその地域一帯にも中華系住民はたくさん住んでいる。シンカワンに近いランダッ Landak県ソンパッSompak村のあまり裕福でない家庭の娘M22歳は、最近知り合った友 人に金持ちの中国人を紹介してあげる、と言われて喜んだ。相手が気に入って妻にしてく れれば中国でお金に不自由しない暮らしが楽しめるのだという友人の話が、Mの頭から離 れなくなった。 2018年9月、友人がRと名乗る中国人男性を連れて来た。RはMに結婚しようと言い、 中国から毎月1千万ルピアを親に仕送りできるし、2カ月ごとに実家へ里帰りして構わな い、と好条件を語る。MはRと結婚の約束をした。 RはMに1千9百万ルピアの結納金を渡した。その数日後、結婚式もまだ行っていないと いうのに、Mは県庁住民管理市民登録課の発行した婚姻証書を受け取った。それから一週 間後に、Mは中国北部の河北省に飛んだ。 Rの一家が空港へMを出迎えた。みんなとても優しくて親切だった。その夜Rの家で、M は幸福をかみしめた。ところが翌朝、昨日あんなに優しかったRとかれの両親が鬼に変わ っていた。 姑は何もしないで、家事の一切をMにただ命令するだけだった。まるで奴隷を得た支配者 のように。舅はMの身体を求めて何度もレープした。Rは両親と一緒になってMをこき使 った。Mは家事の合間に内職の造花作りを強制された。食べ物は粥と即席めんしか与えら れなかった。ある日RがMの肉体を求めたとき、Mがメンスだからと拒んだら、姑がMを 戸外に引きずり出して衣服をむしり取り、素裸にして股間を調べ、冬のさ中だというのに 扉に鍵をかけてMを外に閉め出した。 Mが故郷の親に実情を訴えるために電話したとき、姑が飛んできてスマホをひったくり、 取り上げてしまった。そして姑はMに「ここから逃げるなら損害賠償金1億ルピアを置い て行け」と怒鳴りつけた。 ある日、やっとの思いでMは故郷にコンタクトすることができた。故郷の家族はインドネ シア出稼ぎ者労組ムンパワMempawah支部に実情を届け出た。Mの救出作戦が開始され た。 中国にあるインドネシア出稼ぎ労組と河北省に留学しているインドネシア人学生が動いて Mと密かにコンタクトし、MにRの家から中国警察に逃走させる段取りをつけた。Mは逃 走した後、2019年6月に帰国することができた。[ 続く ]