「注文花嫁(2)」(2019年07月30日)

西カリマンタン州サンガウSanggau県のコーヒーワルンで働いている13歳の少女Pをワ
ルンのオーナーが手招きした。オーナーは中年女性と話をしていたのだ。オーナーはPを
その女性に引き合わせると、立ち去った。

中年女性はPに言った。「あんた、北京の男と結婚したくない?大金持ちだから、一生お
金に不自由しないよ。」

Pはその女性がチョンブラン(仲人商売人)で、結婚相手を探して結婚を成立させること
で稼いでいる人間だとすぐに判った。仲人商売とは、嫁の欲しい家に嫁の成り手を探して
きて、結婚が成立すれば報酬をもらう商売だ。要するに結婚相手紹介ビジネスである。


チョンブランcomblangは元々ブタウィ語で、今では公式インドネシア語の語彙のひとつ
になっている。語源は福建語の「作媒人」に由来し、元来の発音はチョッムランchok-m
-langだったが、ブタウィ人の耳と口がそう変化させたようだ。「作媒人」は日本人にも
すぐに解る熟語だろう。

ただしインドネシアでチョンブランは、結婚と関係なく男と女を結び合わせる役割を果た
す人間にも使われ、それが恋であろうが売春であろうが、中を取り持つ人間を指す場合も
ある。Pに網を掛けようとしているチョンブランは、果たしてどちらなのか?


Pはチョンブランが言っていることはおかしな話だとも思った。『北京の男がなんでサン
ガウくんだりまで妻を探しに来るのかしら。そんなに女が少ないの?』

Pが戸惑っているのを見て、チョンブランはセールストークを打つ。「北京の男と結婚す
れば、生活は保証される。両親に毎月仕送りができて、家も建てることができる。里帰り
だって、いつでもできるんだよ。」

両親を楽にさせてあげられる。Pはチョンブランの口車に乗せられてしまった。言われる
がままにKK(家族登録書)を渡すと、Pの誕生年はごまかされて20歳にされ、KTP
(住民証明書)とパスポートが作られた。

結納金2千万ルピアという話になっていたにも関わらず、チョンブランは1千万ルピアし
かくれなかった。年齢をごまかしてKTPとパスポートを作ったために費用が膨らんだと
いう説明だった。Pはそのチョンブランの口八丁にうさんくさいものを感じ始めていた。
準備万端整ったPはジャカルタへ飛び、2018年1月に北京に向かった。北京に着いて
北京の男と夫婦のように暮らし始めたものの、案の定、結婚の「け」の字さえどこにも見
当たらない。トウモロコシ畑で働くよう命じられ、報酬はなしのつぶてだった。[ 続く ]