「注文花嫁(3)」(2019年07月31日)

やはりサンガウに住むYも、2017年にPと同一のシナリオで結婚手口の人身売買被害
者になった。「北京の男と結婚すれば、生活は保証されて、金に苦労することはない。毎
月5百万ルピアを両親に仕送りできるし、北京の都心部の高級マンションで暮らすことに
なる。」

Yも最初は2千万ルピアの結納金と聞かされていたが、実際にもらったのは1千2百万ル
ピアだけだった。Yの渡航の準備が完了すると、チョンブランは他の女性ふたりを加えて、
2017年8月に北京の男に会うために三人をジャカルタに連れて行った。

ジャカルタでは北京の男が三人いて、そのうちのひとりがYを気に入り、そのまま北京へ
連れ帰った。ところがいざ着いてみれば、チョンブランの言葉は大嘘であることが明らか
になった。北京の郊外部の田舎の一軒家で毎日12時間、装飾品を作る手仕事を強制され
た。

正式結婚などすればこそ、北京の男と仲間たちはセックス奴隷を手に入れて思う存分楽し
もうとする。Yが拒めば暴力が振るわれ、熱湯をかけられた。

あるとき、取り上げられていたスマホがYの手に戻された。Yは密かに故郷に電話して窮
状を訴える。こうしてYは救出され、インドネシアに戻ることができた。


上のストーリーは奴隷労働と性奴隷にされた結婚手口の人身売買被害者が物語ったものだ。
インドネシア出稼ぎ者労組が確認した結婚手口の人身売買被害者は29人で、西カリマン
タン州13人、西ジャワ州16人という内訳になっている。救出されて帰国できたのは西
カリマンタンが9人、西ジャワはやっとひとりだけ。

この人身売買組織は中国に本拠を置き、ジャカルタと西カリマンタンに強力な組織を構築
して被害者を集め続けていると見られている。この組織の摘発と突き崩しを女性保護団体
は期待しているのだが、大した成果はまだ得られていないようだ。


15年ほど前、中華系インドネシア女性がシンガポールや台湾の男性にとって理想の花嫁
とされた時期がある。シンガポールでは、女性の学歴向上と経済力の上昇によって、なま
じの男性には結婚相手の得にくい社会への変貌が起こった。異性の伴侶を求める男女をマ
ーケットにする結婚相手紹介ビジネスが興隆する。

「シンガポール女性は夫の選択に際して希望が高い。あまり人にあれこれ要求せず、素朴
に夫に仕えてくれる娘を妻にしたい。」というのが、結婚相手紹介所の顧客に一般的な意
見だったそうだ。

そんな中で、中華系インドネシア人女性が需要者にとって売れ筋になる現象が起こった。
中国語や中国文化への親近感から、中国系インドネシア女性はシンガポールの環境に溶け
込みやすい。その点でインドネシアのプリブミ女性やベトナム女性より圧倒的に有利だ。
特にカリマンタン出身の中華系女性は中国方言が話せ、中国料理ができ、シンガポールで
の生活にもすぐ適応できることから、たいへん好評だった。[ 続く ]