「熱帯のトランプとハラルマーケット」(2019年08月01日)

イスラム協力機構OICは2017年のグローバルハラルマーケットが2.1兆米ドルだっ
たと記録している。ところが、その市場にハラル製品を供給している国々の多くが、マジ
ョリティ国民が非イスラム教徒の国であるという事実に、関係者たちは憮然とした。

イスラム社会の需要が非ムスリムたちに刈り取られているという皮肉な状況は、産業経済
の本質を示していておもしろい。文化アイデンティティが導き出す人間の連帯などという
ものは、経済産業の基盤なくしては実効性の乏しいものにしかならないにちがいない。

その筆頭にいるのが、南米の熱帯に位置するブラジルだ。ブラジルはハラル肉製品だけで
60億米ドルをイスラム諸国に輸出し、22の貿易相手国との間の貿易バランスは年間7
1億米ドルの黒字になっている。この分野だけで、ブラジルの年間貿易黒字の10%が稼
ぎ出されているのだ。


2019年1月、極右と評価されて「熱帯のトランプ」という綽名の冠されているジャイ
ール・ボウソナーロJair Bolsonaroブラジル大統領がトランプ米国大統領に倣って大使館
をテルアビブからイェルサレムに移そうとした時、アミルトン・モウロンHamilton 
Mourao副大統領はそれに強く反対した。

副大統領をはじめ経済閣僚たちは、貿易バランスが4億米ドルの赤字になっているイスラ
エルと大きな黒字をもたらしているイスラム諸国を天秤にかけて、何がまともで何がまと
もでないかという単純な算数を大統領に投げつけたのである。

ムスリム諸国にハラル製品輸出の諸手続きを行っているブラジル農業省が、ボウソナーロ
大統領の無謀な方針に反対する急先鋒になった。

アラブ―ブラジル商工会議所会頭は、米国に追随する大使館移転は間違いなくイスラム諸
国の反発を受けて、今後の通商に悪影響をもたらすだろうとコメントした。ブラジルがそ
のマーケットで得ていたポジションに誰かがとって替わる可能性は小さくない。

22のイスラム諸国との通商を2022年に2百億米ドルに引き上げようというプログラ
ムを進めている真っただ中に、すべてをご破算にするような大統領の方針が受け入れられ
るわけがない。内閣からの猛反対を受けて、熱帯のトランプ氏は打つ手を失ってしまった。
ハラルマーケットの魅力は、ブラジル大統領が行なおうとした元祖トランプ氏の国威発揚
の真似を差し止めたのである。