「注文花嫁(5)」(2019年08月02日)

台湾に着いて婚約者に会い、Fは自分が騙されたことを知る。婚約者の素顔は無職の飲ん
だくれだったのである。夫はあちこちに借金を作っていて、シンカワンへはその借金の一
部を使ってやってきたのだ。

生活費を稼ぎ、夫の借金返済に充てるためにFは仕方なく食堂で働かざるを得なくなる。
デットコレクターが毎日家へやってきて威嚇した。そのときのFの怯えようは並大抵のも
のでなかった。最終的にFは精神に異状をきたし、2018年にシンカワンに戻って来た。
台湾でのあのような状況に耐えて働くかぎり、夫はFを手放さなかっただろう。Fは両親
のもとに戻り、毎日両親を手伝って畑仕事をするかたわら、治療を受けている。


かつてメールオーダーブライドという現象が一世を風靡したことがある。注文花嫁だ。注
文を受けて花嫁が配達されるというイメージは、上に述べられている諸事件を中華的と位
置付けるなら、やはりどこか違っているように思われる。いずれにせよ、国を越えて素顔
のよくわからない男の妻になろうとする女性が、ここで使われている注文花嫁の語義なの
である。インドネシア語ではpengantin pesananと言う。

注文花嫁の多くのケースは、異郷・異文化での生活という文化適応問題、そして外国に花
嫁を注文する男たちの多くがロワーミドル経済階層であるという経済ステータス問題など
を克服しつつ、それなりに堅実な家庭を築くことに成功しているにちがいない。ところが
そういうまともなものの間に結婚手口の人身売買犯罪が忍び込んでいる。

中国でのものについては、犯罪シンジケートが人身売買の商売を行っていると報道されて
いる。つまりシンジケートの顧客が労働奴隷・性奴隷を手に入れるためにシンジケートに
発注しているということらしい。

インドネシア出稼ぎ者労組書記長によれば、中国側ではシンジケートが女を必要としてい
る客を探し、金をもらって女の供給を請け負う。西カリマンタン側は女を探し、婚約させ、
必要書類を作る。ジャカルタ側はビザを手配し、女を中国に送り出す。

ひとつのプロジェクトに4〜5億ルピアの金が動くそうだが、被害者女性への結納金は1.
5〜2.5千万ルピアで、あとはそれぞれのプロセスにかかる直接経費を支出するだけ。
中国側とインドネシア側でどのように分配されているのか、更にインドネシア側で花嫁リ
クルートと送り出しから残った金は西カリマンタンとジャカルタのシンジケートメンバー
にどう分配されているのか?いったい何人がその恩恵にあずかっているのやら。[ 続く ]