「水とバリ文化」(2019年08月02日)

バリ州ギアニャル県タンパッシリンTampaksiring郡マヌカヤManukaya村に古代から伝え
られているティルタンプルTirta Empul水源がある。現代インドネシア語に訳すとair 
mengepulという意味だそうだ。

昔、タンパッシリンはバリ島の統治センターとされ、水源にはプラが建てられて崇められ
保護された。来歴を物語るマヌカヤ碑文はサカ暦884年(西暦962年)の年号が刻ま
れており、ティルタンプルは1千年を超えて守護され続けていることがわかる。

ティルタンプルから東に向かって流れる水はパクリサン川Tukad Pakerisanとなり、川の
上流の岸辺に沿ってチャンディイェ―マグニンCandi Yeh Mangening、チャンディ兼瞑想
場グヌンカウィGunung Kawi、瞑想場ゴアガルバGoa Garba、チャンディ兼瞑想場トゥガ
リンガTegallingahなどの遺跡が並ぶ。

反対に水源から西に向かって流れだした水はプタヌ川Tukad Petanuとなり、そこにはチャ
ンディ兼瞑想場クルブタンタティアピKelebutan Tatiapiや瞑想場ゴアガジャGoa Gajah
が設けられた。

ティルタンプルの水は聖水とされ、心身に付着する穢れを浄化し、清め、溶かす力を持つ
とひとびとは信じている。そればかりか、水そのものに対するバリ民衆の抱く観念、つま
り豊饒さと生命力もそこにまとわりついている。


すべての生物の生命に水がどれほど重要な意味と機能を有しているのか、その悟りがバリ
人の水に対する尊崇の意識を培養した。こうして島内のあちこちにある水源に対する儀式
が個々に定められた日に営まれ、その慣習は歴史の長い期間に渡って欠かされたことがな
い。

あちこちにある水源は、壊されたり間違った扱いがなされないよう、神聖なものとされ、
定期的に宗教儀式が営まれ、儀式は聖水で始まって聖水で終わる内容になっている。生き
ることは水によって支えられ、水を神聖視することで土地の豊かさも維持される。

かつてバリの諸王国は、水源から出て来る水を一旦王家の庭園や池に溜めて、そこから農
民の水田に分配する形を取って来た。ムンウィMengwi王国はタマンアユン寺院Pura Taman 
Ayun、カランガスムKarangasem王国はウジュン庭園Taman Ujungやティルタガンガ庭園
Taman Tirta Ganggaというように。

王家が水利経営を行ったということでは決してなく、これは王家と領民の関係を象徴的に
示す権力表示として行われたものだ。農民は王家から拝領した水を、スバッsubak制度を
使って民主的で公正な方法で分配し、最大の効用を引出すように活用した。スバッ制度は
単なる灌漑システムにとどまることなく、バリ農民の共同体生活を律する文化制度として
位置付けられてきたものだ。