「注文花嫁(終)」(2019年08月05日)

ところが台湾については、そのポイントについて言及している情報が見当たらないのであ
る。西カリマンタンにいて注文花嫁を探し回っているチョンブランがシンジケートメンバ
ーであるかどうかは何ら確証がない。この種の人間たちにとっては、花嫁を注文したのが
シンジケートであろうが、個人であろうが、満足できる報酬が得られることだけが問題な
のである。シンジケートに所属しても定常収入が得られないのであれば、だれの注文でも
受けるほうが経済性ははるかに大きい。だれにでもすぐに解る原理だ。

だからFのケースが、台湾人の夫個人の犯意による行為だったのか、それともシンジケー
トが仲介していたのかはよくわからない。逆に言うなら、この注文花嫁システムの悪用は
犯罪性向を持つ人間が個人で行うことすら十二分に可能であると言えるにちがいない。

そのときに問題になってくるのは、個人が行った場合に人身売買に該当するのかどうかと
いうことがらだ。ちなみにインドネシア語の人身売買は日本語とそっくりのperdagangan 
manusiaがその術語になっていて、辞書では「人間を対象にしたあらゆる売買取引」がそ
の語義だ。シンジケートのような仲介者が商売として行う場合には間違いなくマッチする
ものの、Fのようなケースが仲介シンジケートなしに行われていれば、該当しなくなる懸
念が強い。

現実に、インドネシアの女性保護機関や保護団体は注文花嫁に対する人身売買からのアプ
ローチを警察に強く求めているものの、国家警察の意見は人身売買の定義を当てはめるの
に難しさがあるとして期待に沿えない姿勢を示している。


いや、インドネシア国家警察はインドネシア語辞典を片手に議論しているわけではない。
「人身売買刑事犯罪撲滅」に関する2007年法律第21号の定義に従って警察は動いて
いるのである。この法律は人身売買犯罪を次のように定義付けている。
人身売買とは;
搾取を目的にし、あるいは対象者が搾取される結果を招くところの、
暴力の威嚇、暴力の使用、誘拐、幽閉、偽造、詐欺、権力乱用、立場の弱さ、借金の束縛、
金銭や効用の供与、を用いることによって、
その対象者を操作する立場にいる者の同意を得て行われる、
対象者のリクルート、輸送、収容、送り出し、移動、受け入れ、の行為であり、
その場所は国内と国外を問わない。

ちなみに日本語の人身売買の定義は「誘拐や詐欺などの手段で被害者を連れだし、強制
労働や売春、兵士、臓器移植などに利用する犯罪」となっている一方、英語のhuman
traffickingの定義は「ある国や地域から別の国や地域に、一般的に強制労働や性搾取を
目的にして、違法に人間を移動させる行為」となっていて、トラフィッキングに焦点が
当たっているように見える。

日本人が日本語によって上のような諸事件を把握し理解しても、その理解内容が世界共
通だと思ってはならないのかもしれない。[ 完 ]