「スンバ島のカースト制度(前)」(2019年08月22日) 東ヌサトゥンガラ州スンバ島の住民は、ご主人様と奴婢下僕という人間関係で構成されて いる社会を作ってきた。その仕組みをカーストと呼ぶことにしよう。この小論で使われて いるカーストの語義はヒンドゥ社会のものとは内容が違うことを頭の片隅にとどめておい ていただきたい。 東スンバ県カンベラKambera郡ランバナプLambanapuで数年前に国立考古学センターが行っ た発掘調査は興味深い事実を引き出してきた。2千年から3千5百年前という古い時代の 墳墓に、遺体の容器(棺)があるものとないものが見つかったのである。 ランバナプのカンバニルKambaniru川沿いの民家敷地内のおよそ1メートルほどの地中に、 仰向けで埋められた人間の骸骨5体と、人間の骨が入った7つの容器が掘り出された。 次いで2018年、国立考古学センターは同じ場所から50メートルほど離れた場所での 発掘調査を行い、そこが大きな墳墓地区であったことを発見した。ふたたび前回と同じよ うな13体の骸骨と骨の入った容器がひとつ見つかっている。どうしてこのような異なる 埋葬の方式が用いられていたのだろうか? 考古学者ハリー・トゥルーマン・シマンジュンタッ教授によれば、容器に入れて葬られた 人間は社会的に尊敬された高位の人間であり、そのまま埋められたのは普通一般の平民だ ったことが考えられる、とのことだ。それは遺体と一緒に埋められた副葬品の内容からも 推し量ることができる。玉・首輪・腕輪・耳飾りなどの装飾品や金属製の道具などは棺の 中からだけ見つかっている。 地元で作られたことのない銅製の耳飾りが副葬品の中に見つかっている。それは紀元前5 00年ごろにベトナムのドンソンで作られたものと推測され、はるかに離れたスンバ島と 東南アジア大陸部の間でそれほど古い時代から交易路が形成されていたことをわれわれに 教えている。 発掘調査が行われた家は、地元の隣組長を務めるアンドレアス・マランバさんの自宅だっ た。その家の敷地内に設けられた先祖代々の墳墓の中に社会的高位者と思われるひとびと のものが多数あったのは、かれの家系が古くから地元の有力者としての地位を得ていたこ とを示すものであり、その子孫が地元共同体の指導的立場に就くのを社会が当然と見なす という因果関係がそこに表れているように思われる。 スンバ島のカースト社会では古来から、社会的に高い地位にあるご主人様が没するとそれ に仕えていた奴婢下僕を殉死させる慣習が行われていた。だが時代が下るにつれてその慣 習は衰え、家畜の生贄や副葬品に替えて埋葬するように変わっていったそうだ。[ 続く ]