「プレセタンはジョグジャのお家芸(前)」(2020年05月14日) プレセタンpelesetanとは日本語の語呂合わせ・駄洒落・地口・かけ言葉などに相応する ものだ。プレセタンについての詳しい説明は2018年9月の記事の中にあるので、 プレセタン 2018年9月12日〜18日 5連載 頭字語とプレセタン 2018年9月19〜20日 2連載 をご参照ください。 http://indojoho.ciao.jp/newsmenu1809.htm インドネシア人はこの種の言葉遊びが大好きなのだが、地方別に見るならヨグヤ人がその 筆頭だという説がある。ヨグヤというのはヨグヤカルタYogyakartaのことで、外国人がジ ョクジャカルタJogjakartaと呼んでいるあの地方のことだ。 インドネシア国内行政における正式名称はヨグヤカルタであっても、外国人が使う発音に おもねってインドネシア人もJogjakarta、さらにはJogyakartaという折衷版すら使ってい るから、外国人であるわれわれも使って別に悪くはない。とはいえ、統計などを調べる際 にはYogyakartaしか出て来ないから、由緒来歴だけは知っておくべきだろう。 ただ、現代カタカナ表記はなぜかJogjakartaの[g]に従ってジョグジャカルタと書かれて いる。そのために、原音を知らない日本人はみんな[jo-gu-ja-ka-ru-ta]と発音している。 ところが、実際の音は[g]でなく[k]の方に近い。 欧米人の発音も[jokja]と聞こえることの方が多いし、自分で発音してみても分かる通り、 [jok-ja]の方が[jog-ja]より明瞭な発音になり、無理して[g]をはっきり言おうとすると [jo-gu-ja]になってしまう。戦時中はもちろん、戦後しばらくまで日本人もジョクジャと 発音し、カタカナでもジョクジャと書いていたというのに、いったい誰がいつからジョグ ジャに変えてしまったのだろうか。 このジョグジャはほんの一例で、インターネットの日本語世界マップを見ると、原音とか け離れた地名のカタカナ表記が山のように出現する。時には、原語のアルファベットをわ ざわざ英語風に読んでそれをカタカナで書くというアクロバットもどきも見受けられる。 外国語の固有名詞を読み書きするのに、いったいどうして現代日本人は原音から離れよう 離れようとするのだろうか? 日本人は日本人同士の間で理解し合える表現をしていればそれでよいのだ、というご意見 を唱えるひとがいるのだが、外国人との相互理解を頭から無視したようなこの発言は、日 本人がいかに自尊を肥大化させているかということを示すものではあるまいか。それほど 自尊でこり固まりたいのなら、外国の固有名詞の原音と異なる別の言葉を隣国を見習って 作ればよいではないか。 おかげで、あれも不徹底これも不徹底の日本人はますます言語音痴と諸外国から見られる 方向に歩まされているように思えて仕方ない。そんな方向に導いているのはいったい何者 であり、日本民族に何をしようとしているのだろうか?余談はここまで。 デイヴィッド・クリスタルは著書Language Play,1998の中でこう書いている。ひとはだれ でも、自分たちの言葉を遊び、またそれに反応する。その遊びで単に心を楽しませるだけ のひともいれば、それにのめりこむひともいる。しかしながら、それに無縁のひとはこの 世界にひとりもいない。21世紀に入らんとする現在、世界はいまだかつてなかったよう な言葉遊びの洪水に直面している。 ヨグヤカルタのガジャマダ大学デワ・プトゥ・ウィジャナ教授は修士課程の教え子が即席 に発したプレセタンの一例を披露した。その女子学生は数カ月もの間、修士論文の指導を 受けにやってきていなかったのだ。[ 続く ]