「ジャムゥ(2)」(2020年06月09日)

ワヤンプルウォWayang Purwaの物語には、病を治し、死者をよみがえらせるほどの効能を
持ち、更に繁栄と知恵のシンボルとして、全能の神通力を持つお守りの形で、クレスノ
Kresnaのウィジャヤクスマの花やユディスティロYudhistiraのジャヌスカリムソドのよう
ないくつかの植物が登場する。

生にとって大きい役割を持つアギンangin(風)についての認識は、今や最新医学が体内
の空気についての関心を高めている現象に見られる通りだ。ワヤンプルウォの立役者であ
るスマルは自然界に並ぶ者のない腹の空気の発射パワーを持っている。つまり屁のことだ。

伝統医療の用語であるmasuk anginは西洋医薬分野にうんちくを持つひとびとに蔑まれて
きたが、今や最新最先端の学術思想の持ち主たちの間で、それは見直されつつあるのだ。


第二ミレニアムの初期から現実生活の中でインドネシアの伝統医学はドゥクンなどの村落
部で活動する専門家や王宮内にいる王や貴族層たちの信念と業績の中に保存されてきた。

ジャムゥ開発の発展は古代文献の中にも謳われ、またほのめかされている。ジャワのいく
つかの王宮に備えられているSerat Primpon JampiあるいはSerat Racikan Boreh Wulang 
Dalemがそれで、それらは古ジャワ文字を使った手書きのものになっている。そのほかに
も、Usada Sari, Kalimusodo Purate Bolong, Usada Tatenger Beling, Usada Tuwas 
Punggungなど、ロンタルの葉にジャムゥの調合法が記されたものもある。

われわれにヌサンタラの伝統医学に関する文献遺産が残されているのは、実に幸運なこと
である。しかしながらそれらの文献に記されている内容は、代々語り継がれてきた口承に
よる情報よりはるかに浅いものだ。口承による情報は今や、書き留められて文書の形に集
積されている。


   総合的に見て、ジャムゥの寄与とそれが持つ潜在性は、西洋伝統医薬(ファーマシ
ー)が治療を重視しているのに対して、健康状態を良好に保つことで病気予防や身体強健
をもたらすツールとしての面にあるという結論を引くことができるだろう。民族生活にと
ってジャムゥは、長期的な能力を持ち、罪のない民衆の血を流すことのない平和な状況下
に民族の防衛力を養うような、政治建設の一要素に擬することができる。反対にファーマ
シーは軍事的要素のひとつであり、能力は短期的で敵を即座に破滅させようとする破壊性
を持ち、暴力的環境下に罪のない民衆の生命を奪うような危険な副次効果を伴っている。

そのため急病などの場合には、バクテリア・病菌・ウイルス・その他の感染源となる敵を
倒すための攻撃的・破壊的・即効的な性質を特徴とするファーマシーによる医薬を使う方
がはるかに効果的であり、賢明な態度である。

ジャムゥを緊急的感染症に使うのは、完全武装の敵国軍隊に攻撃されたとき弁舌外交のみ
で対抗しようとするのと同じように、大きな間違いである。だから身体壮健であるときに、
予防と健康増進のためにジャムゥを飲む習慣をつけて、健康を犯そうと攻撃してくる敵を
跳ね返す力を維持するに越したことはない。つまりジャムゥとファーマシーをどっちが主
人公かなどと競わせる必要はまったくないということなのだ。人間の健全な身体の維持発
展のために、両者は互いの長所と短所を持って、互いに助け合い、補完し合い、満たし合
うものなのだから。

< ふたつのコンセプト >
インドネシアの伝統医薬哲学にはふたつの病気コンセプトがある。

1.霊的側面のコンセプト
病気になるのは、次のようなことがらの結果である。
a. 先祖の墓参りをせず、あるいは墓の手入れを怠るような無関心を戒めるために、あの
世から先祖が警告を与えている
b. 誓いを破る
c. 住居を建てるときの位置方角などや表門の前に木を植えるといった(風水と類似のも
の)言い伝えられているタブーを破っている
d. 一族の年長者からの呪いを受けている
e. 継承されてきた先祖代々の宝器の扱いに間違いがある
f. 敵対する者からの黒魔術や呪術を受けている
[ 続く ]