「正しく善いインドネシア語」(2020年07月03日)

ライター: 語義研鑽家、サムスディン・ブルリアン
ソース: 2016年7月30日付けコンパス紙 "Bahasa Benar"

正しく善い言葉bahasa yang baik dan benarというおかしなスローガンがもう何十年もの
間、ヌサンタラの全土を我が物顔に横行しているが、それへの抗議が響き渡ったことはな
い。そりゃそうだ。「正しく善い」に誰が反対しようというのか?悪く間違ったことを望
むのは、事実や倫理の欠けた真実を創造するのが好きな政治家を別にして、いったい誰だ
ろうか?よしっ。yang baikは受け入れることにしよう。それは問題にしなくてよい。し
かしyang benarは本当に問題含みなのである。どの意味でのbenarなのか?それをどうや
って決めるのか、そしてそれをだれが決めるのか?


普通、benarは相互に関わりを持たないふたつの意味で使われる。存在する事物、事実上
のものごとに合致しているというのがひとつ。もうひとつは、そうあるべきものごと、理
想や倫理に合致しているというもの。

memang benar dia telah bertindak tidak benarという文がその違いを鮮明に映し出して
いる。本当にかれがそれを行ったのだ。ところがその行為はあるべき規準から外れていた、
つまりふさわしいものでなかったのだ。そのふたつの語義は、現実世界で参照されるべき
事実性もしくは倫理規範に関わっている。上述の文が明示していない事実性と倫理規範が
その内容を証明する時、その文は真となる。

では、bahasa yang benarとは事実上で正しいのか、それとも倫理面で正しいことばなの
か?そのどちらも違うのだ。なぜなら、示されているものごとはkebenaranなのでなくて
kesepakatanあるいはkonsensusなのだから。bahasa yang benarというのはbahasa yang 
dinyatakan atau diakui benarなのである。物質界においてはkebenaran faktualもke-
benaran etisも常に本質的論理的に証明されなければならないが、言語界ではそうなっ
ていない。kebenaran bahasaとは、中味も入れ物も、語義も文法も、使用者の受容が必
要なだけだ。合意されるだけでbenarになるのである。たとえばガルーダという単語の語
義が、神話の鳥なのか、本物の鳥なのか、国章なのか、航空会社なのか、豆菓子のブラン
ドなのか、それはすべて対話している発言者と話し相手の手の中にゆだねられているので
ある。主語‐述語‐目的語の語順はそれに従おうとする言語使用者の意志を限界にしてい
るのだ。たとえば詩人と読者や詩作の朗読と聞き手の間には往々にして、いつでも好きな
ときに標準文法を逸脱する合意が成り立つ。その合意は完璧に勝手放題、お好み次第だ。

昨日の合意は、今日また別のものになる。合意はそのように変化し、標準と考えられたり
言われていたものは置き換えられる。文字の形、文字の表す音、綴り方、語義、文法・・
・すべては遠い歴史の過去から絶えず変化してきたものであり、今後も変化し続けるだろ
う。
言語の構造や法則は事実上の自然の法則や倫理面での原則と同じなのでなく、むしろ交通
規則に似たものだ。路上の交通が円滑になされるために決められるものなのである。自動
車の右側通行も左側通行も、単に決めるだけのことだ。交通の決まりを定めるのは言うま
でもなく運輸省と警察である。しかしコミュニケーションの円滑さを図るために言語の決
まりを定めたのは誰なのか?もちろん、その言語を使うひとたちだ。正確には言語使用集
団、つまりその言語を使うさまざまなグループである。

国が任じる国語行政高官がいる。言語専門家や研究者がいて、言語活動家がいる。かれら
の発言や見解は通常、重みを持っている。行政高官は、例えば綴り方を変えるというよう
な、新しい合意を定めることができる。言語活動家は自国語を尊重するあまり、外国語の
影響を嫌う。他人の言葉に、その言い方は間違いだと即断するひともいる。作家はスタイ
ルと人気で影響を及ぼす。大作家が新スタイルで新しい合意の種をまくこともある。個人
も組織も、変化や変革を生み出すことがある。言語使用グループ間で影響を競い合うとき、
生きている言語は創造的なテンションに見舞われる。硬派グループの中には、あたかも言
語警察や言語判事のごとく振舞う者もある。

ひとつの国語が定められたり宣言されると合意が発生するのはユニバーサルな現象だ。と
ころがあらゆる細部にわたって合意が作られる言語は例外なしに、ない。常に方言や言語
傾向としての地理的なローカル合意がつきまとい、単語や語句が生まれてから滅びるまで
の暫定的合意もあり、ジェンダー・若者・科学者・技術者・宗教・組織・犯罪者・汚職者
などの特定集団に限定された秘密的でミステリアスな合意も存在する。短縮されアイコン
に満ちたソスメド言語の技術的な合意もある。合意は広範囲になされることもあれば、狭
い範囲に限られることもあり、長期間もあれば短期間もある。言語は生成発展し、旺盛な
繁殖力を示す。言語にとってのkebenaranはワイルドであると同時に整然とし、自由闊達
で、決しておとなしくなどしていない。